Research Abstract |
本年の研究の第一の目的は,セキュア・インプレメンテーションの理論を完成させることであった.理論研究者が均衡概念を選ぶ,というのが通常の経済理論における習わしであるが,我々は支配戦略均衡とナッシュ戦略均衡が一致するというセキュア・インプレメンテーション(セキュア遂行)という新しい概念を提唱している.数年来の研究を通じて,この概念を満たす従来のメカニズムは幾つかの例外を除いてほとんどないことを確認している.例外の代表例が,選好の単峰性を仮定するときのグローブズ・メカニズムである.そのほか,セキュアなメカニズムがどのような環境ならば構築できるのかに関する研究も最終段階である. セキュア・メカニズムに関する実験もほぼ終了した.セキュア・メカニズムとしてグローブズ・メカニズムをとり,一方,ノン・セキュアなメカニズムとしてピボタル・メカニズムを採用した.セキュア・メカニズムでは,支配戦略を取る人々は8割を超えたが,ノン・セキュアの場合,それは約半数であった.つまり,セキュア・メカニズムの性能が高いことを確認した. 均衡概念のみならず,経済学研究者が想定しているように,個々の被験者の評価ないしは効用関数が他者とは独立なのかどうかという研究も開始している.これは,従来の「日本人はいじわるがお好き?!」研究の延長上にあるのだが,親切にされたり,いじわるをされたりしたとき,ヒトはどのように反応するのだろうか,という問いかけにたいし,fMRIを用い,以下の新たな知見を得ている.親切にされたとき,相手に親切にする場合には,脳の前島が活動している.前島は飢えや渇きといった肉体的なむかつきや,精神的なむかつきに関係するとの先行研究があるが,相手に親切にするときにも活動するのではないのか.また,脳のMPFCは相手へ仕返し(revenge)するときに活動するという先行研究があるが,今回のように親切を返すときにも活動するのではないのか,等々である.これらはこれからの研究になるであろう. また上記のいじわる研究に関し,上海交通大学の被験者を用いて日中比較をしたところ,日本人のほうが上海交通大学の被験者よりもいじわるであることを観測している. さらには公共財供給における自発的参加メカニズムの理論モデルビルディング,ユニット・バイ・ユニット・メカニズムにおける理論および実験研究,ユニフォーム・メカニズムの実験検証なども開始している.温暖化に関しては,新たなポスト京都メカニズムを提案し始めている.
|