Research Abstract |
平成17年度では,現地調査及び室内実験モデルを通して,沿岸域におけるフミン鉄の錯平衡挙動及び鉄の生物利用性を評価した。 年間調査では,沿岸域における溶存有機物質の性質(フミン物質含有量,分子量,安定同位体比)と溶存鉄の季節及び空間的分布変化が観測された。塩濃度増加に伴い,鉄はフミン物質から解離して,水酸化鉄を形成するため,河川から沿岸域にかけて鉄濃度は急激に減少することが示された。しかしながら,沿岸域ではフミン物質が外洋より高濃度で存在するため,溶存鉄(フミン鉄)濃度(0.1〜1.0μM)が外洋(数nM)よりも高いことが分かった。 沿岸域におけるフミン鉄の錯平衡モデルは,デバイ-ヒュッケル理論に基づき電気化学的視点から構築された。理論式は,フミン物質官能基種の量,分子量,溶液のイオン強度,pH等の物理化学的なパラメータを考慮することができる。一般に,デバイ-ヒュッケル理論は高塩濃度域に適用できないが,このモデル式では,Davies近似を導入することで,イオン強度と自由エネルギーの関係について補正を行い,高塩濃度においても適用可能にした。構築されたモデルは,フルボ酸及びフミン酸と鉄の錯平衡実験結果と非常によく適合した。 スーパーオキシドにより第二鉄を還元し藍藻類独自のタンパク質により鉄を摂取する過程を,キサンチン,キサンチン酸化酵素及びフェロジンを用いることで再現した。この研究では,鉄の形態として水酸化鉄及び起源を異にする様々なフミン鉄を用いた。スーパーオキシドによるフミン鉄の還元速度(すなわち生物利用性)は,その起源及び性質(酸性官能含有量)により異なることが分かった。また,これまで水酸化鉄は植物プランクトンに使用されにくい形態とされてきたが,形成時間(酸化程度)が比較的短い場合においては,水酸化鉄はフミン鉄と同程度の還元速度を示すことが明らかとなった。
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