Research Abstract |
本年度は,転写制御システム解析のための具体的な課題として,マウスの脳を対象として,皮質板上層部における神経細胞群の移動終了過程を制御する上で重要な転写因子群およびその制御関係を,計算機を用いて同定する研究を行った.我々が開発した複合的なデータを用いたグラフ的解析手法では,まず(i)複数の異なる種類のデータを収集し,(ii)それら個別のデータに対して教師なし学習および教師付き学習のそれぞれの手法を用いた解析を行い,各種データに対する信頼度を評価し,(iii)最終的にそれらの知見を踏まえて,グラフ(リンク構造)として統一的に解析する.(i)については,本研究では,対象遺伝子のプロモーター配列(上流3000bp),マウスの転写因子結合部位行列(370個),各プロモーター配列内における5種の近縁生物種にまたがる保存度,およびGene Ontology (GO)等の機能アノテーション情報を用いた.(ii)については,教師なし学習手法としては,主成分分析,k-means,自己組織化マップ(SOM),カーネルスペクトルクラスタリング等の各種クラスタリングを行い,教師つき学習手法としては,分散分析,選択的多変量分散分析を行った.(iii)については,まだプロトタイプの段階にとどまっている.結果として,いくつかの候補転写因子の発見とその制御関係を解明することができた. 一方,血小板由来増殖因子(PDGFs)とその受容体(PDGFRs)は様々な細胞内プロセスにおいて重要な役割を果たしている.今回我々は新しいヒトPDGFR・mRNA (type II)を同定した.この転写産物は,既知のヒトPDGFR・mRNA (type I)と同じ翻訳領域を有し,5'非翻訳領域のみが異なった構造であった.また,type II mRNAの転写は転写因子E2F-1によって活性化されるが,type I mRNAの転写は活性化されないことを示した.さらにtype II mRNAはエピジェネティック制御も受けていることを示唆した.これらの結果はヒトPDGFR・の転写制御機構において新しい知見である.
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