Research Abstract |
身体的ストレスが少なく,かつ効果的なトレーニング方法を開発するためには,運動・トレーニングによる筋肥大のメカニズムについての知見が不可欠である。本研究は,筋肥大機構の研究のための新しいモデル系(動物およびヒト)を開発するとともに,筋肥大に関連する遺伝子の動態を捉えることを目的としている。昨年度の研究により,以下が判明した。1)動物モデル:Wister系ラットの後肢下腿筋から出ている静脈の一部を外科的に閉塞すると,10日間の通常飼育下で下腿筋に肥大が起こり,グリコーゲン濃度,乳酸濃度(安静時)の増加が見られた。さらに,肥大した筋ではmyostatin濃度の低下,NOS-1,HSP-72,HGF(活性型)などの発現増加がみられた。2)ヒトを対象としたモデル:血流制限下での下肢のトレーニングによって,短期間(2週間)で筋肥大をもたらすモデル系を開発した。この方法により,平均約8%の筋断面積の増加が起こり,循環血漿中のIGF-I濃度にも増大が認められた。本年度はこれらのモデル系を用い,筋生検のDNAマイクロアレイ解析などによりさらに詳細な遺伝子発現の検索を行った。その結果,主に以下の点が明らかとなった。1)骨格筋特異的なα-アクチン(ACTA1)の発現は増加し,非筋型β-アクチン(ACTB)の発現は変わらず,筋タンパク質の合成活性化が示唆された。一方,胎児型ミオシン(MYH3,MYH8)の発現が特に顕著に増加しており,筋サテライト細胞による筋新生過程の活性化が示唆された。2)IGF-I(IGF1),IGF-II(IGF2)の発現がともに増加し,myostatin(GDF8)およびtypeII activin受容体(ACVR2)の発現が低下した。また,follistatin-like protein (FSTL1)の顕著な増加(×9.79),caveolin-1(CAV1)の増加などがみられた。これらの結果から,骨格筋肥大にはmyostatin合成の低下に加え,その受容体の減少,拮抗物質の増加などが重要な役割を果たしていることが示唆された。
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