Research Abstract |
本年度では,17年度に検討した体温上昇が静的運動時における身体調節機構(呼吸・循環・体温・神経の各調節機構)に及ぼす影響は体力レベルによって異なるのかを主に検討するために,以下の実験を実施した. まず,環境温35℃,相対湿度50%の環境下で下肢を43℃の湯に浸し,食道温が上昇する前とそれが約1℃上昇した時に最大随意筋収縮の静的掌握運動を120秒間実施した.被験者は体力レベルの異なる学生6名とし,この実験中に各調節系パラメータ(換気量,呼吸数,心拍数,血圧,心拍出量,食道温,皮膚温,局所発汗量,皮膚血流量および筋交感神経活動)を連続的に計測した.この結果,最大随意筋収縮力の維持は食道温が約1℃上昇すると低下する被験者とそうでない者が存在した.この被験者と体力(最大酸素摂取量)との関係を検討したところ,明確な関係は得られなかった.しかし,被験者数が少ないことから,更に両者の関係を明らかにする必要性も指摘された. 次に,運動時の呼吸調節に焦点をあて,体温を上昇させたときの呼吸調節の変化を検討した.被験者は13名の学生に対して,循環スーツの湯の温度を10℃,35℃および45℃の3条件に設定し,最大酸素摂取量の約50%の運動を60分間実施させ,このときに呼吸パラメータ(酸素摂取量,呼吸数,1回換気量,呼気ガス等)を測定し,体温上昇に伴って換気量がどのようになるのかを比較した.その結果,体温上昇とともに換気量も直線的に増加するが,この関係に皮膚温や体温の上昇度の違いはほとんど影響しなかった.また,この関係には個人差が認められた. 以上の実験から,体温上昇に伴う運動パフォーマンスの低下は,体力レベルよりも体温そのものに関係し,また,体温上昇に伴う換気量がその低下を引き起こす原因の一つとして考えられた.また,この関係には個人差があることから,体温上昇と換気量の関係における個人差と体力との関連を更に検討する必要がある。
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