Research Abstract |
陽子移動反応質量分析計(PTR-MS)を用いて,植物の有害VOC吸収能力を評価するため,初年度は以下の実験をした。 1.PTR-MSによるVOCガス種ごとの測定法の確立,特に湿度の影響の評価 2.植物へのVOC沈着を吸収と吸着に分別して測定する方法の開発 3.各植物種のVOC除去能力の評価(17年度以降も継続) 1に関しては,まず暴露する対象物質である,低級アルデヒド類(〜C5),ケトン類(〜C5),アルコール類(〜C5),芳香族炭化水素(〜C7)の陽子移動反応後のフラグメントイオンを同定した.約2/3の物質は分子イオンと同等かそれより高いカウント量のフラグメントイオンを生成した.露点発生器を用いて,これらのイオン量におよぼす湿度の影響を調べた.ほとんどの分子イオンは湿度の上昇と共に高まり,フラグメントイオンは低下した.これは,水蒸気の影響で反応イオンのH_3O^+イオン以外にそのクラスターイオンであるH_3O^+H_2Oイオンが生成され,それがVOCと反応する際,よりソフトな反応が起こり,分子イオン生成量が増すためだと考えられた.湿度に関する補正式を各VOCで作成することで,PTR-MSによる測定濃度が補正可能となった. 2に関しては,ヘンリー定数から葉に可溶なVOC量を算出し,暴露中に吸収されたVOC量と比較した.暴露を24時間行うことで,吸収量が可溶量より2〜3桁高くなり,植物によって吸収されたVOCが何らかの代謝系で消費されていることを実証した. 3に関しては,観葉植物のポトス,スパティフィラム,ベンジャミン,アビス,アンスリウム,ペペロミア,カポックを用い,ケトン類,アルデヒド類および芳香族炭化水素を暴露した.暴露濃度は50〜500ppbvの範囲であった.アルコール類およびケトン類は全ての植物に吸収されたが,芳香族炭化水素のベンゼンとトルエンには吸収は認められなかった.PTR-MSの測定精度分析の結果,ガスクロマトグラフより高い精度でVOC濃度を測定でき,暴露チャンバー入り口と出口の濃度差が3%以上あれば,統計的に吸収あるいは放出を認められることが明らかになった.しかし,ベンゼンとトルエンでは,濃度差はほとんど見られず,このことは植物がこれら物質を吸収していないか,例え吸収していても,わずかな吸収量であることを示している. 以上,本年度は当初の計画をほぼ達成できた.来年度は主に樹木を用いて実験を継続する.
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