2005 Fiscal Year Annual Research Report
多自由度カオスの相空間構造に基付く非平衡反応動力学の構築
Project/Area Number |
16340113
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
戸田 幹人 奈良女子大学, 理学部, 助教授 (70197896)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小松崎 民樹 神戸大学, 理学部, 助教授 (30270549)
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Keywords | 統計的反応論 / 遷移状態 / 法双曲的不変多様体 / カオス / アーノルドの網の目 / エルゴード性 / 1 / f / レート方程式 |
Research Abstract |
第1は、法双曲的不変多様体のカオス的分岐の可能性を明らかにした。従来の反応論では、ポテンシャルのサドル上すれすれを通過する場合のみ考慮してきた。これに対して、サドル上で「熱浴」の自由度にもエネルギーが分配され、その間の非線型相互作用が重要となる場合、「熱浴」自由度におけるカオスを無視することはできない。特に「熱浴」のリャプノフ数の絶対値が、法線方向のリャプノフ数の同程度の場合、「法双曲性」の前提が破れ、多様体が構造安定性を失う可能性がある。その結果、従来の化学反応論が前提としてきた「遷移状態」の概念が成立しなくなる可能性を明らかにした。第2は、法双曲的不変多様体のトポロジカルな分岐の可能性を、3自由度以上の系で解析した。従来の研究では、2自由度系におけるトポロジカルな分岐が解析されていたが、それを一般に拡張する事はできていなかった。本研究では、法双曲的不変多様体の概念とリー正準変換の方法を用いて、系統的な解析を行い、従来知られていない分岐の可能性を明らかにした。第3は、高励起振動状態の分子における振動エネルギー再分配過程に対して、アーノルドの網の目に基付くモデルを作り、非エルゴード的な場合における反応過程の解析を行った。特に非エルゴード性が、反応係数のような統計的物理量にどのように反映するのかを調べ、滞在確率が時間に関してべき的に変化する事を発見した。さらにこのような軌道は、作用の値のフーリエ変換が1/f的であることも見出した。このように相空間が非一様な系における滞在時間分布は、軌道が経めぐる領域に応じて異なる統計的性質を示し、統計的反応論が前提とするレート方程式の成立に疑問を投げかけた。第4に、多自由度量子系に対して、非線形動力学に依る量子絡み合い生成における普遍性クラスを、量子カオスの動的過程の解析とランダム行列理論に依拠して提唱した。
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