Research Abstract |
古生代末のペルム紀-三畳紀境界(P-T境界)には,地球の生命史上で最大の大量絶滅事件が起こったことが知られている.当時の主要なプランクトンである放散虫類も,P-T境界付近で古生代型の放散虫が絶滅してしまうことから,当時の海洋環境の激変が考えられている.しかし,三畳紀最前期の放散虫に関する報告が従来ほとんどなかったため,P-T境界における放散虫群集の変遷は不明であった.本研究ではこの時代のチャート層が世界で唯一見出されているニュージーランド北島のアローロックスにおいて,三畳紀最前期の放散虫群集の古生物学的研究を行い,P-T境界における変遷史を考察した. 三畳紀最前期のInduanについては約10層準から比較的保存良好な放散虫化石が産出し,約40種以上を識別した.そのうち約20種を記載・報告し(Takemura and Aono,2007; Takemura et al.,2007a),他の10数種についても記載論文を投稿準備中である.結果として,これら三畳紀最前期の放散虫化石は,古生代後期に見られるEntactinada, Latentifistularia, Albaillellariaを含み,中生代型のNassellariaなどは含まない.Nassellariaを含むのはInduan後期になってからであり,古生代型のものと混在する(Kamata et al.,2007).すなわち放散虫化石はP-T境界で多くが絶滅せず,三畳紀最前期のInduanにかけて,漸移的に変化していることが判明した. 本研究ではこの他,共同研究者とともにアローロックスに露出するオルアテマヌ層の総合的な層序研究を行い,ニュージーランド核地質研究所のモノグラフとして出版した(Sporli et al.,2007).それによるとオルアテマヌ層はペルム紀から三畳紀のチャート,珪質泥岩層からなり,三畳紀最前期に2回の海洋無酸素事件が識別された.これらの海洋での長期の環境変動が,放散虫群集の変遷と密接に関連していると考えられる. 昨年から本年度の調査で,Induan上部の放散虫群集がさらに得られた.この群集の解析によって,今後三畳紀最前期における放散虫群集の変遷がより詳細に解明できると考えられる.
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