Research Abstract |
多角入射分解分光法(MAIRS)は,仮想的な縦波光を考え,従来の計測理論にはない回帰式による理論構築を用いた,他に例の無い薄膜解析のための分光測定法である.そこで萌芽研究での基礎研究に引き続いて本基盤研究では,この新しい概念に基づくMAIRS法を実験的に確立するとともに,応用範囲を探索する目的で2年目の検討を行った. 赤外MAIRS法の重要な特徴として,不均一な薄膜についても分子配向解析が行える点があげられる.これは,理論的に予想していたことで,実際に成り立つかどうかを検証するため,キャスト膜の構造解析を行った.解析の対象とした膜は,ロイシンファスナーと水素結合の強相関によって自己組織化が期待されている分子で,これまでキャスト膜中で分子の配列がどうなっているかわからなかったものである.解析の結果,キャスト膜中でも水素結合により平行β-シート構造が生じ,自己配向性も示していることがわかった.また,これまで帰属の明らかでなかった3070cm^<-1>付近のアミドBバンドのMAIRS異方性が,アミドIIバンドの異方性と定量的に一致したことから,アミドBバンドはアミドIIバンドの倍音によるFermi共鳴バンドであることが,実験的に始めて結論できた. このほか,アミロイド病の原因物質とされるIIGLMペプチドを含む人工ペプチドが繊維状の凝集体を作る機構を,赤外MAIRS法で検討した.これまで表面圧-面積曲線測定やエピ蛍光画像観察などでしか議論できなかった分子凝集機構を,初めて分光学的に詳細に捕らえて議論することに成功した. また,水素終端化したシリコン基板表面のSi-H伸縮振動の配向角を,赤外MAIRS法によって初めて実験的に決定することなどにも成功した。 こうした一連の成果が認められ,第2回堀場雅夫賞を受賞することができた.
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