Research Abstract |
本年度は,液相法による核酸誘導体の大量合成法確立のための,新規脱水縮合剤の開発を重点的に行った。本研究課題で開発した新規核酸合成法は,ヌクレオシドホスホン酸誘導体を脱水縮合剤を用いて活性化し,遊離の水酸基を有するヌクレオシドと縮合する,いわゆるH-ボスホネート法と呼ばれる核酸合成法に分類される。従来,核酸合成に用いられてきたスルホン酸系,リン酸系,カルボン酸系の脱水縮合剤は,脱水縮合反応において,水酸基への副反応や核酸塩基部位への副反応が起るため,それらを用いる核酸合成反応の収率は満足できるものではなかった。また,従来の縮合剤を本研究で開発した液相法による新規核酸合成法に適用した場合,オリゴヌクレオチド鎖の延長とともに,顕著な縮合反応収率の低下が観察された。そこで,これらの問題を解決すべく,新しい効率的な脱水縮合剤の開発を行った。 3-ニトロー1,2,4-トリアゾリル基を脱離基として有する,トリアミノホスホニウム型の化合物が,高い縮合活性,官能基選択性を有する優れた新規縮合剤であることを見出した。ボスホニウムリン原子の置換基を種々検討したところ,1,3-ジメチル-2-(3-ニトロ-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-2-ピロリジン-1-イル-1,3,2-ジアザホスホリジニウムヘキサフルオロホスフェート(MNTP)が最も有効な脱水縮合剤であることがわかった。MNTPは,ホスホン酸エステル誘導体だけでなく,リン酸エステル,カルボン酸エステルや,対応するアミドの合成にも極めて有効であった。MNTPを用いることにより,初めて本研究課題で開発した核酸合成法を液相法によるオリゴマー合成に適用することが可能となった。 一方,本研究課題で開発した新規核酸合成法では,天然型以外のリン原子修飾核酸類縁体を合成できるため,合成化学的に極めて有用である。しかし,従来の縮合剤を用いる方法では,新たに生成するインターヌクレオチド結合のリン原子の立体化学を制御することが困難である。そこで,本研究では,アキラルなホスホン酸誘導体から立体選択的にインターヌクレオチド結合を生成する新しい脱水縮合反応系の確立を目指して研究を行った。種々の光学活性カルベニウム型新規縮合剤の合成を検討し,化合物の安定性,縮合活性に関する知見を得た。
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