Research Abstract |
血管平滑筋細胞を対象とし,力学刺激に対する細胞の力学・収縮特性のダイナミックな変化を単一細胞レベルで詳細に調べ,力学刺激と細胞応答の関連を明らかにするとともに,平滑筋細胞が血管壁内でどのような力学環境に置かれているのか,詳細に調べることを目的とし3年間の研究を進めている.研究初年度の本年度は,まず,1)現有する細胞用引張試験装置を改良し,粘弾性特性が計測できるようにした.画像解析装置,ピエゾドライバーなどを新たに購入し,リアルタイムで細胞の長さ情報を電圧信号として取り込み,細胞の伸び量や細胞に負荷される張力をフィードバック制御可能なシステムを構築した.即ち,新たにパンダグラフ機構を開発してピエゾ素子の変形を7倍に拡大できるようにし,これで細胞長をステップ状に変化させた後の張力緩和を測定できるようにした.試料にはラット胸大動脈由来培養平滑筋細胞を用い,弛緩状態の粘弾性特性を計測した.得られた応力緩和曲線にケルビンモデルを当てはめ解析したところ,得られた応力緩和の時定数は200秒程度と他の血管系の細胞(赤血球,白血球,内皮細胞)の時定数に比べて極めて大きいことが判った.また,2)無負荷状態の血管壁内弾性板の蛇行原因を探るため,血管壁の凍結・解凍前後での同一部位の弾性板の蛇行の程度の変化を調べた.この目的には,血管壁断面を高倍率・長被写界深度で観察できる装置が必要になるため,ビデオマイクロスコープ用のズームレンズならびに照明ユニットを購入した.これらを用いた観察の結果,血管壁の凍結により蛇行度が減少することが明らかとなった.これは凍結により平滑筋細胞が破壊され血管壁内部で発生していた張力が減少するためと考えられた.すなわち,弾性板の蛇行が平滑筋細胞が発生する張力による座屈である可能性が示された.
|