Research Abstract |
力学刺激に対する血管平滑筋細胞の力学・収縮特性のダイナミックな変化を単一細胞レベルで詳細に調べ,力学刺激と細胞応答の関連を明らかにするとともに,平滑筋細胞が血管壁内でどのような力学環境に置かれているのか,詳細に調べることを目的とし3年間の研究を進めている.研究2年目の本年度は,まず,1)平滑筋細胞の粘弾性特性の計測を進めた.その結果,昨年利用したケルビンモデルよりも,弾性要素と粘性要素の直列結合を2つ平行に並べた4要素マックスウェルモデルの方が応力緩和挙動をよく表すことを見出した.このことは応力緩和のプロセスが時定数の異なる2つの応答の重ね合わせと考えることができることを意味しており,その時定数は約60秒と3600秒の2つであった.また,細胞内アクチンフィラメント(AF)の重合を阻害すると弾性係数は2つともおおよそ半減したのに対し,時定数は長い方のみ優位に減少し,1800秒程度となった.このことは時定数3600秒の応力緩和はAFのリモデリングにより生じることを意味し,平滑筋の応力緩和を早く受動的な応力緩和と遅く能動的な応力緩和の二つに分けて分析する必要があることが判った.次に2)血管壁内の細胞にどの程度の応力が加わっているのかを推定するため,酵素法による細胞単離過程のその場観察を行う系の確立を進めた.微分干渉顕微鏡下に薄切切片に酵素液を吹きかけつつ,試料の変化を観察したが,現時点では画像の質が低く,細胞剥離の瞬間の形状変化を明確に捕らえるには至っていない.また,3)血管壁組織の顕微鏡下摘出方法の検討を進めた.血管壁をクライオスタットを用いて数10μm程度に薄切することで,マイクロダイセクタによる薄切組織からの弾性板層の摘出が可能となった.この結果,弾性板を周囲の平滑筋層から剥離することで蛇行度が減少した.すなわち,弾性板の蛇行が平滑筋層の張力による座屈である可能性が確認できた.
|