Research Abstract |
最終年度の本年度は,まず,1)ブタ胸大動脈壁内の平滑筋細胞に作用する残留応力・ひずみを見積もるため,細胞核の形状の変化と細胞の引張試験を組合せた方法を確立した.すなわち,細胞が生きたまま核をSYTO13で染色し,レーザ顕微鏡で組織内の核形状を3次元再構築し,長軸長さの平均を求めた.次いで酵素法により細胞を組織から単離し,単離細胞の核長軸長さの平均を求め,両方の比から核の組織内における残留ひずみを求めた.そして単離した細胞を核形状を観察しつつ細胞用引張試験機で引張り,核が残留歪み分の長さになったときの張力と細胞形状から,残留応力を求めた.その結果,平滑筋細胞の組織内ので残留ひずみは23%,残留応力は10kPa前後であることが明らかとなった.次に,2)弾性板組織の顕微鏡下摘出による形態変化の観察を行った.すなわち,血管壁を凍結下に薄切した試料からマイクロダイセクタを用いて弾性板層と平滑筋層を剥離し,更に酵素処理することで弾性板を単離し,この際の弾性板形状の変化を観察した.その結果,酵素処理により弾性板はほぼ直線状となり,壁内の蛇行が圧縮による座屈であることが確認できた.また,単離した弾性板の力学特性を細胞用引張試験機で計測した.その結果,弾性板の公称応力-伸び比関係は伸び比2.0までほぼ直線であり,ヤング率は440kPa程度であることが明らかとなった.以上得られた結果をブタ胸大動脈の内圧-外径関係と比較し,内圧100mmHgの生理状態において,弾性板に70〜80kPaの張力,平滑筋には最低でも40kPaの張力が作用していることが明らかになった.しかし,この値はラプラスの式から計算される円周方向応力の平均値100kPaと比べて低かった.この不一致はコラーゲン線維の影響を評価していないこと,平滑筋の力学特性が弛緩状態で計測されたものであること等によるもの考えられた.
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