Research Abstract |
真空大気両環境中で優れた潤滑特性を有するMoS_2固体潤滑膜の開発を目的として,まず,SUS440C製ローラに被覆したMoS_2真空スパッタ膜の摩擦寿命に及ぼす膜密度と空気中保管の影響を調べた.その結果,寿命の変化は膜の密度に大きく依存し,密度3.7g/cm^3以下の膜被覆ローラにおいては,空気中保管により寿命は低下し,かつ膜の密度が小さいほど寿命が低下し始めるまでの保管日数は低下すること,密度4.3g/cm^3の膜被覆ローラにおいては,空気中保管により寿命は一旦増加した後減少,この寿命の増減にはローラとの境界部の膜の酸化が関係することを明らかにした. 次いで,スパッタ膜中に含まれる酸素含有量が潤滑特性に与える影響を定量化するために,酸素を0.1〜1%含むアルゴンガス中でスパッタを行い,4.4〜35at%の酸素を固溶したMo-S-O膜を作製する条件を見出し,この膜の潤滑特性を測定した.その結果,膜の酸素含有量はアルゴンガス中の酸素濃度に比例すること,膜の酸素含有量の増加とともに結晶配向性は変化し,15.6at%ではほとんどのC軸が基板面に平行になること,膜の酸素含有量の増加とともに寿命は向上し,15.6at%で最大値をとった後低下すること,酸素含有量が4.4at%の膜の寿命は,膜厚にかかわらず一定であるが,酸素含有量が8.5at%以上の膜の寿命は,膜厚とともに増加することを明らかにした. さらに,膜厚と寿命の関係に及ぼす結晶配向性の影響を調べたところ,膜厚と寿命の関係は,膜の結晶配向性に依存し,基板面に対し(10・1)面と(11・0)面が垂直に強く配向している膜は,膜厚0.2μm以上で寿命がほぼ一定になること,基板面に対し(10・1)面と(11・0)面が垂直に弱く配向している膜の寿命は,膜厚とともに増加して約0.6μm以上で急増することを明らかにした.
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