Research Abstract |
昆虫はその小さな体に存在する僅かな水分を利用して,個体のホメオスタシス(恒常性維持),成長・変態,生殖まで完結している。水とpHの適正な維持管理は昆虫においても生存戦略の基本である。能動輸送機構によって創出された組織内外のpH,イオン組成や浸透圧の影響が,体内の各組織のはたらきへ直接作用し,個体としての耐乾燥能力にも反映されていると考えられる。本研究では,消化・排泄・呼吸・休眠など昆虫の生命活動のなかで,能動輸送機構による水分管理やイオン調節が,開放性血管系生物である昆虫の耐乾燥体制の支持基盤としてどのように貢献しているのか,鱗翅目昆虫だけでなく極度のストレス下に棲息する昆虫も用い,昆虫にとっての水代謝や水分調節機構の生理的役割について遺伝子レベル・細胞レベルから調査した。 カイコ幼虫を用いた実験から,2種のカイコアクアポリンをクローン化したが,カエル卵母細胞の外来遺伝子発現系で,これらの実際の水輸送機能について調査したところ,後腸で強い発現を示すタイプは水を輸送する機能を持ったアクアポリンであることが分かった。もう一つのタイプは,中腸やマルピーギ管(昆虫の腎臓)に主に分布するが,こちらについては未解決のまま残された。現在,低分子溶質を輸送する可能性について調査を進めている。 この2種のアクアポリンに対する特異的抗体を作製し,タンパク質レベルでの局在を調べたところ,後腸のタイプは,結腸や直腸の上皮細胞表層に分布していた。一方,中腸のタイプは,中腸上皮の円筒細胞の表層に特異的に認められた。マルピーギ管でも同様な管腔側の表層に認められた。カイコで得られた結果を利用して,ナシヒメシンクイやニカメイガ幼虫でのアクアポリンの調査を現在進めているところであるが,抗体を用いた細胞レベルの局在分布について,利用できることがわかった。鱗翅目幼虫における水代謝の生理機能について,アクアポリンを中心にした全体像が近い将来に明らかにできるものと考えている。
|