Research Abstract |
沿岸海域で発生した赤潮の消滅過程において殺藻細菌は重要な役割を演じており,赤潮の発生予防や駆除に向けて実用化が期待されている。我々は,沿岸域に繁茂する大型海藻の表面に莫大な数の殺藻細菌が付着生息している事実を初めて発見し,殺藻細菌の供給源としての藻場の重要性を提言した。本研究では,藻場水域と赤潮水域の殺藻細菌群を比較して,この仮説の検証を試みる。本年度は,大阪湾に位置するアマモ場を対象として海水とアマモ試料の採集を行い,海水についてはデトライタス等の粒子付着細菌に着目し,寒天平板法により殺藻細菌を計数し,同時に分離を行った。アマモの葉体についても,付着している殺藻細菌を剥離させ寒天平板法によって分離計数を行った。殺藻細菌の確認は,分離した細菌と赤潮藻類との二者培養試験によった。アマモ葉体表面には,約1千万-9千万/g湿重の殺藻細菌が付着していた。アマモ場海水中には約1千-1万細胞/mLの密度で赤潮藻殺藻細菌が検出された。アマモ場の植物プランクトンでは,鞭毛藻類はごく低密度であった(20細胞/mL以下)。また主要な有害赤潮鞭毛藻はアマモ場で全く検出されなかった。珪藻類も80細胞/mLを越えず,低い密度で推移した。砂浜海岸では,アマモ場よりも数倍程度の密度で植物プランクトンが検出された。沖合域の海水中では中心目珪藻類が卓越し,海水1mL当たり約1百-10万細胞のオーダーで変動した。鞭毛藻類では,無殻のラフィド藻や渦鞭毛藻の有害種が沖合で検出された。以上から,アマモ場の海水中には植物プランクトンが殆ど生息できず,これは豊富な殺藻細菌が原因と考えられた。瀬戸内海では昔(高度経済成長期以前)に比ベアマモ場は1/4に激減している。富栄養化が赤潮発生の促進要因となり,一方で赤潮発生の抑制要因であるアマモ場や藻場の喪失が重なり,赤潮発生が促進されたと考えられる。
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