Research Abstract |
リゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid ; LPA)の血管生物学的意義に関して基礎・臨床両面から迫るべく研究を行い、以下の成果を上げた。 1.血中におけるLPAの代謝 血中LPAは,非常にダイナミックな代謝変換を受けていることが明らかになった.つまり,血漿中には,lysoPLD/ATXが基質のLPCとともに存在しており、血漿を単に37℃で2時間インキュベーションするだけで,LPA量が飛躍的に(10倍程度)増加することが判明した.一方,各種細胞表面には,LPAを脱リン酸化するlipid phosphate phosphatase (LPP)が発現しており,エクト酵素として血漿中のLPAを分解(脱リン酸化)することが確認された.このLPPの発現,外因性LPAの分解は,血管内皮細胞,血小板をはじめとする各種血球で確認できた.血中においては,lysoPLD/ATXによる産生,LPPによる分解で,LPAレベルのバランスが保たれていると想定された.また,LPAが惹起する細胞応答は,標的細胞上のLPAxとLPPのバランスで決まることが想定された. 2.種々の細胞上のATX, LPA受容体発現の解析 血液細胞におけるATX並びにLPAx発現を,RT-PCR (mRNA)とフローサイトメーター(蛋白質)を用いた解析した.各種血球系さらにはその分化段階で,これらの発現が大きく変化することが確認され,今後の研究の進展が待たれる. 3.慢性肝疾患患者におけるLPA濃度とlysoPLD活性の解析 LPAの慢性肝疾患への関与を探るため,慢性肝疾患患者の血漿LPA濃度,血清lysoPLD活性を測定した.慢性肝疾患患者では,血漿LPA濃度ならびに血清lysoPLD活性が健常者に比して有意に上昇しており,この両者の相関は良好であった.さらにlysoPLD活性はヒアルロン酸濃度と相関し,血小板数とは逆相関を示した.lysoPLD/ATXは慢性肝疾患の進行を反映するマーカーになる可能性が想定されるとともに,その病因への関与も想定された.
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