Research Abstract |
東北タイの非灌漑稲作地帯での「直播栽培」の生産の安定,多収化のために,研究年度4年目(最終年)の農家調査,参加型親子試験,栽培試験を行い,成果を学会発表すると共に投稿準備を進めた。現地の一般的な乾田散播栽培と条播栽培の比較を行い,条播と除草の組み合わせにより,水条件の悪い圃場でも収量が改善されることを示したが,普及のためには,より簡便に作業を行える条播用機械が必要であることが示唆された。また,播種量をどれだけ減らせるかを解析し,良好な圃場では30kg/ha程度までは減収しないこと,より劣悪な環境では,厚播きにより,減収を回避できる場合もあるが,そうでない場合も多く,より複雑な要因を整理してモデル化することが課題とされた。また,しばしば直播により,生育前期の旺盛な成長に対し,出穂期以後の生産低下が直播の低生産性の一因であることを示した。 タイ王国東北部に隣接するカンボジア北西部での「直播栽培」と品種の採用状況についても調査を行い,灌漑修復地域での灌漑整備の進展状況,付加価値の高い米と品種の早生化を推進する農業政策に対する栽培現場の状況について調査をした。また,労働集約性という点では,直播栽培と対照的なSRI農法ががカンボジアで増加しているということについて,普及状況についても調査した。 タイ王国における近年の着実で目覚しい経済成長は,農村との経済格差を広げ,産業構造や農業人口にも影響を与える可能性は引き続き大きい。日本の1960年代以降のように,田植え機を含む機械化と除草剤の開発,普及により,農業の労働生産性を高める,という戦略は,タイでは難しく,直播栽培の検討,特に,東北部などのように,天水農業でなおかつ条件の悪い圃場の利用については,技術開発の可能性と,総合的土地利用の検討が必要であろう。
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