2005 Fiscal Year Annual Research Report
日本住血吸虫の起源に関する分子系統・分子細胞遺伝学的研究
Project/Area Number |
16406010
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
吾妻 健 高知大学, 医学部, 教授 (40117031)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平井 啓久 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (10128308)
田口 尚弘 高知大学, 大学院・黒潮圏海洋科学研究科, 助手 (80127943)
吾妻 美子 高知学園短期大学, 衛生技術科, 教授 (50004726)
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Keywords | 住血吸虫 / Schistosomatidae科 / 分子系統樹 / 住血吸虫の起源 / 遺伝子配置 / ミトコンドリアDNA / 肝臓超音波検査 / Network pattern |
Research Abstract |
本研究では、本年度は、ミトコンドリアDNA遺伝子のcox1-trnT-rrnL-trnC-rrnS(チトクロームオキシダーゼサブユニット1、トランスファーRNA、リボソームRNAを含む)の1.9kb塩基配列を調べ、住血吸虫8種(S.nasale, S.haematobium, S.intercalatum, S.mansoni, S.spindale, S.mekongi, S.japonicum, S.incognitum)の間で比較した。まずcox1領域は他の領域に比べてかなり保存的であったが、トレオニンtRNAのintergenic junction領域は、最も多くの変異を含んでいた。S.nasaleとS.spindaleでは、このintergenic junction領域は、他種に比べて比較的長い。また、2種のEast Asian住血吸虫(S.japonicum, S.mekongi)のもつ、システインtRNAと12S rRNAの間を繋ぐDNA領域は、他の種に比べて長くなっている。African住血吸虫(S.haematobium, S.intercalatum, S.mansoni)とIndian血吸虫(S.nasale, S.intercalatum, S.spindale, S.incognitum)の塩基配列を比べると73%から78%のホモロジーが認められたが、両者は共にEast Asian住血吸虫からは、69%と離れていた。興味あることに、Indian住血吸虫の1種S.incognitumは、African住血吸虫よりはEast Asian住血吸虫に近縁性を示した。また、ミトコンドリアDNAにおける遺伝子配置を比較したところ、Indian住血吸虫の2種(S.nasale, S.spindale)は、East Asian住血吸虫(S.japonicum, S.mekongi)と比べると、まず、2遺伝子ブロック(atp6-nad2及びnad3-nad1)が再配列(rearrangement)をしており、次に、tRNAs及びLNR(非コード領域)が異なった場所に配置換え(translocation)されていた。本研究のこれらの結果から、この遺伝子の配置は、African住血吸虫(S.haematobium, S.intercalatum, S.mansoni)と同一であることが明らかになり、Indian住血吸虫とAfrican住血吸虫との近縁性が再び確認された。 一方、住血吸虫症は、現在75ヶ国、約2億人の人々に罹患しており、世界的に重要な公衆衛生上の問題となっている。特に日本住血吸虫症は重篤な肝臓病になる。今回、フィリピン、ルソン島南部のソルソゴン州の2町(イロシンとフバン)において、2005年8月にその肝臓病態について超音波検査を行なった。対象患者は、過去にKato-Katz法或いはCOPTで同症と診断された314名(男性:244名・女性:70名)である。肝臓超音波検査の他に血清抗体価測定(ELISA)とKato-Katz法を施行し、併せてプラジカンテル(PZQ)治療回数についても調査した。肝臓超音波検査で本症に特有の重篤な肝臓病変であるNetwork patternを呈した患者は215名(68.5%)で、そのうち男性は176名(72.1%)、女性39名(55.7%)であった。一方、ELISA陰性でNetwork patternを呈する患者は46名(90.2%)で、Kato-Katz法陰性でNetwork patternを呈する患者は195名(714%)であった。千種らが1997年に同国・東ミンドロ州の流行地で、過去にKato-Katz法陽性であった患者に初めて肝臓超音波検査を施行した時は361名中63名(17.5%)にNetwork patternを見出したに止まった。以上の結果より、東ミンドロ州の本症患者に比較して、ソルソゴン州の患者の肝臓病変は顕著に重篤であると考えられる。また、ELISA陰性者、Kato-Katz法陰性者に占めるNetwork patternを呈する患者はそれぞれ90.2%と71.4%と高率である事から、慢性期患者の病態把握には肝臓超音波検査が重要である事が再確認された。
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Research Products
(5 results)