Research Abstract |
当該本年度は,昨年度のEEG実データを用いた研究成果の発表と最新の脳波解析技術の情報収集や有効性の討論を行うため,SPIE, BME2006 (Austin, USA), MDAI2005 (Tsukuba, Japan), ICNF2005 (Salamanca, Spain),統計数理研究所,岐阜大学,脳機能研究所,広南病院,会津大学などにて行った。本年度は新たなEEG実データ(66サンプル)の提供を受け(総サンプル数72となった)昨年度より開発してきた様々な揺らぎ特性や複雑性指標((a)局所フラクタル次元,(b)局所エントロピー,(c)多重スケールエントロピー,(d)位相速度,など)の検討を行い,確率複素非線形モデルを加えて解析技術を進化させてきた。データ整理には短期雇用者を採用し謝金を支払った。 本年度は次のような研究成果が得られている。(1)EEG時間変動の確率過程による定量化する具体的な手法を上記の複雑性指標(a)-(d)について確立し,様々な確率数理モデル((i)一般化ブラウン運動の方程式や(ii)確率複素ギンスブルグ・ランダウ方程式,修正確率ホジキン・ハックスレイモデル)を用いて記憶効果や有色雑音効果などを詳細に調べた。局所サンプルエントロピーの確率過程や多重スケールエントロピーは記憶のある確率過程よりむしろ,記憶のない散逸の大きな確率過程のほうが多くの実データの特性を表現することが明らかになった。(i),(ii)のモデルによる数値シミュレーションでアルファ波成分をフィルタで抽出すれば定性的に実験データの様々な複雑性特性を説明できることも確認した(SPIEにて発表)。(2)確率複素ギンスブルグ・ランダウ方程式を用いた情報幾何の方法により,モデルのパラメータを振幅の一般化レイリー分布と位相速度の一般化コーシー分布から偏見なく推定する手法を開発し,各種の頭部マップを作成する方法を確立した(ICNF, MDAI,統計数理研究所にて発表)。大局的な頭部マップの一様性の程度が健常者と痴呆患者の判別情報として有効であることを現有EEGサンプルで確認した。(3)多重スケールエントロピーの解析ならびにその空間マップの一様性に関連した情報を用いれば,現有データの範囲内で健常者と痴呆患者の分別判定が単独で全体の8割が単独で判別できることを確認した。その他の統計的指標を統合すれば,アーチファクトの汚染がひどいサンプル以外のすべての現有データでの判別ができることを確認した(未発表)。(4)最も信頼性の高い修正確率ホジキン・ハックスレイモデルの数値シミュレーションを擬似単色雑音印加下でも実行し神経パルス発火の簡略モデル(フィッツフー・南雲モデルやヒンドマーシュ・ローズモデル)との神経パルス確率共鳴特性の定量的な差異が明らかになった(未発表)。 サンプルエントロピー解析をはじめとする複雑性指標やそれらの空間特異性の検出や健常・痴呆の形式的判別では,痴呆原因部位の特定に直接結びつけられず,脳生理学的な意味つけや空間分解能の問題が残る。そこで,空間分解能の良いMEGとEEGの同時測定データを入手し,EEG解析の限界の把握とMEG解析の試行も開始している。
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