Research Abstract |
平成16年度は、複数のサルに、以下に説明する認知課題を訓練し,学習成立後,慢性ニューロン活動記録実験のための記録チャンバーの設置や眼球コイルの埋め込みなど手術を行った. 1.「顔」による遅延見本合わせ課題(F-DMS課題):視覚刺激は主に,サルにとって未知または既知の人物の「顔」を,5方向(右横向き,右斜前向き,および正面向きを含む)から撮影したデジタル画像である,サルが固視点に注視した後,見本刺激が呈示され,一定または任意の遅延期間の後,テスト刺激が呈示される.サルは見本刺激と同一人物(アイデンティティ)の「顔」刺激を同定することが要求される.すなわち,見本刺激と「顔」の向きが異なる場合も,アイデンティティが同一であればそのテスト刺激は正解となる.(1)正解テスト刺激と見本刺激の「顔」の向きの関係と(2)不正解テスト刺激の種類は,展望的符号化条件と回顧的符号化条件で異なる(下記参照).正解テスト刺激が呈示された場合,あらかじめ決められた行動反応(レバー押し)を行うとジュースが報酬として与えられるが,不正解テスト刺激の場合は,サルは何もせずに次の試行の開始を待たなくてはならない. 2.展望的符号化(Prospective coding:PC)条件と回顧的符号化(Retrospective coding:RC)条件:PC条件では,(1)正解テスト刺激として使用される「顔」は,必ず見本刺激と同一方向の「顔」であり,(2)不正解テスト刺激として,他の試行で正解テスト刺激として使用された「顔」が重複して使用されることはない.このような条件では動物は展望的符号化を認知方略としてとりやすい.一方,RC条件では,(1)正解テスト刺激として使用される「顔」は,見本刺激と異なる方向の「顔」であってもよく,アイデンティティが一致すれば正解となる.また,(2)不正解テスト刺激として,他の試行で正解テスト刺激として使用された「顔」が重複して使用される場合がある.このような条件では動物は回顧的符号化を認知方略としてとりやすい. 3.単一ニューロン活動の記録とデータ解析:サルにはF-DMS課題を(1)PC条件ブロック,(2)RC条件ブロック,(3)PC条件ブロックの順に行わせる.最初の(1)PC条件ブロックで有意な「顔」関連応答のあるニューロンに対して,(2)RC条件ブロックおよび(3)PC条件ブロックでのニューロン応答の変化(特にニューロン応答開始点の時間的移動)を解析する.このような「顔」関連ニューロン応答の比較・解析により,展望的符号化や回顧的符号化などの認知方略に関わる脳内メカニズムのニューロンレベルでの解明が可能になる. 現在、同課知課題におけるサルの行動反応と前部下側頭皮質のニューロン活動の記録・解析を行っている.
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