Research Abstract |
プリズム順応を半側空間無視患者に対して実施し,無視症状の改善と順応の方法との関係を検討した.昨年度から,プリズム順応を強化するため,液晶タブレット上に,身体正面,左または右5度,左または右10度の5通りの位置に,ランダムな順番で1か所ずっ標的を出して到達運動を行う方法を試みている.到達運動の回数も50回から80回に増加させたが,集中力低下を避けるため標的の色を変えながら呈示することにした.この方法を用いると,少なくとも健常人では安定した順応が得やすい.一方,半側空間無視患者では,重症度ならびに協力性の程度によって,5通りの位置の到達運動が可能な場合と原法による2通りの標的でないと到達運動ができない揚合とがあり,症例によって使い分ける必要が生じた. 順応の直前,直後,2時間後に線分抹消試験,星印抹消試験,模写試験,線分二等分試験をすべて実施できた半側空間無視患者は,本年度は6例であった.無視の重症度別では,重度1例,中等度2例,軽度3例である.無視症状の改善は,中等度の1例のみに認められた(本例は,高齢で協力性がやや得にくかったため原法で順応を行った).改善は,線分二等分の右方偏位量の減少として現われ,2時間後にも効果が持続した.抹消試験では,既に時間をかけての代償的探索が可能となっており,最も左側の数個の見落としに変化はなかった.この例の病巣は右後頭葉にあり,Serinoら(2006)の後頭葉病巣ではプリズム順応の効果がないという報告とは相反する結果となった.また,Rousseauxら(2006)は,半側空間無視の連続10例を対象にプリズム順応の効果を検討し,有効性を認めなかったと結論している.しかし,研究代表者も,有効性が確認できる例を経験しており,'症例を重ねることによって方法の改良ならびに、適応の選択条件を明らかにしていきたい.
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