Research Abstract |
今年度までにプリズム順応を実施した半側空間無視患者は14例であった.そのうち,無視の改善がみられたのは5例であり,著効といえるBIT通常検査成績83点→127点(最高146点)が持続した1例を除き,改善程度もわずかにとどまった.これは,欧米の報告に比べて効果が低い.プリズム順応を強化するため,到達運動の回数と標的の位置を増やす試みも行ったが,効果の有意な向上につながらなかった.むしろ,重度の半側空間無視で2つの標的でも左方を探せない例を経験し,順応方法に工夫を凝らす必要を生じた.すなわち,2つの標的を線分で結ぶことにより左側の標的発見が容易となり,プリズム順応が成立した.この例の線分二等分(長さ190mm)の右方偏倚は,順応前90mmに対して順応後20mmに減少した.順応後には,線分の左端を注視し鉛筆で触ってから二等分する方略が獲得されたが,他の課題での改善はみられなかった. プリズム順応の半側空間無視に対する効果は症例により大きく異なり,また,探索的課題と線分二等分のどちらが改善しやすいという一定の傾向もなかった.長期の改善を示した1症例では,二等分が改善した前述の例と異なり,抹消試験で効果が持続し,線分二等分の改善は直後に限られた.病巣については,後頭葉病巣では効果が少ないという報告もあるが,我々の検討で改善をみた1例の病巣は後頭葉にあった.他の改善例の病巣は,頭頂葉1例,側頭頭頂葉2例,被殻出血1例と一定しない.本研究では,プリズム順応が有効な半側空間無視例の特徴を明らかにすることはできず,また,改善効果も限定されることが示された.しかし,重症度に応じて方法を工夫し,プリズム順応を成立させることができれば,半側空間無視改善のきっかけとなり得る.プリズム順応は,急性期から慢性期のいずれの時点でも,リハビリテーションの一環に取り入れる価値があると考えられた.
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