Research Abstract |
沿岸域における海洋環境の変動を示すパラメータの中で,生物の行動に最も影響すると考えられる水温は日射量や海象気象と密接な関係を持っている。そこで,この水温変動が原因の異なる周期成分を持つことに着目し,水温変動の周期性を用いて沿岸域の海洋環境の変動を予測するシステムを開発することを目的として,本年度は,昨年度同様に諫早湾湾口部に水温・塩分・濁度・クロロフィル量・日射量及び潮汐流・海面変動を連続測定し,解析を行った。 その中で,表層から一定間隔で多層の水温を連続測定し,水温が持つ長周期成分を数値フィルターで抽出し,この長周期成分を層別に比較すると,海洋構造が成層状態であるか混合状態であるかを示す指標となることが分かってきた。さらに,成層状態の発達は塩分と日射量に関係し,混合状態は一定期間海面を強風が吹くことによって生じることが分かった。さらに,この成層状態の中で,夏季における温度成層を予測するため,日射量と風速と河川流量からデータ処理によって,表層の温度成層の推定を行った。その結果,実際の温度成層と類似した成層状態を実現できた。 しかし,冬季においては表層より下層の水温が高いと行った逆転した温度成層が認められた。この現象は河川水に起因した塩分成層であり,有明海では付着生物の影響で塩分の長期測定は困難であり,付着生物の少ない海域で連続観測を行う必要があると考えられる。 この成層状態の消長を示す指標に関しては,その概要を論文としてまとめ,その季節的な特徴に関して,国際学会で発表した。また,その続きを本年3月の日本水産学会,6月の日本水産工学会で報告する予定である。 さらに,混合状態が生じる要因である海面を吹く風に関しては,有明海の周囲の風を調べた結果,くの字に曲がった地形に沿って風が吹いていることが推察出来たので,季節的な特徴に関して解析を行っている。潮汐の推定値と測定した実際の海面変動を比較し,海面の上昇や下降が風の吹き寄せによることが示唆されたので,現在その手法を確立するため,プログラムの開発を行っている。なお,植物プランクトンの増減と成層状態の消長との関係については,十分な成果が得られていないため,新たな解析方法を検討すると共に,測定地点の再検討を行っている。
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