Research Abstract |
ヒトなど動物に認められる社会性行動や個体間コミュニケーションの発現・獲得・発達過程を知ることは重要である.集団における社会性行動の成り立ちを解明する目的で,日本の固有種ニホンミツバチApis cerana japonica Rad.(Acj)と,モデル生物のセイヨウミツバチApis mellifera L.(Am)を用いた.実験は,様々な社会性行動を解発する情報化学物質と,寄生ダニ戦略(異個体間衛生グルーミング行動)および,寄生ガ対策(異物認識-排除行動)について行った.(1)室内生物試験,Acj働き蜂が衛生グルーミング行動を引き起こすダニ由来の情報化学物質を機器分析したその結果,ダニの抽出物からはC14,16,18などの脂肪酸類とそのエステル類・炭化水素類が検出された.(2)ミツバチの天敵ウスグロツヅリガ成虫(ツヅリガと略)に対する行動調査を行った結果,働き蜂はツヅリガを巣の外へ捨てる行動が頻繁に観察された.(3)働き蜂がツヅリガを認識する際に利用する情報化学物質の候補化合物を検索するため,ツヅリガ抽出物をGC/MS等の機器分析に供し,体表炭化水素類・脂肪酸類・ステロール類・アルデヒド類を検出した.(4)上記で検出された化合物の標品を用いた生物試験を行い,生理活性を認めた.ダニ由来とツヅリガ由来の化合物は一部共通していた.(5)AcJ自然群の巣門付近では,門番の働き蜂による異個体間グルーミング行動が頻繁に観察された.(6)巣の入り口付近では,帰巣した外勤蜂に対し,異物認識に敏感な門番のチェックが頻繁に行われている可能性が高いと考えた.そこで野外のAcj自然群を用い,自然状態により近い環境で,ダニ由来の化合物に対する巣門付近の働き蜂の応答を調べた.その結果,巣門前の野外生物試験で,Acj働き蜂はダニ由来の物質に対して,対照区より多くの個体が反応した.試料に対して,集まる・触角で触る・繰り返し戻ってくるなど,試料をチェックする行動は,対照区と比べて有意に多く認められた.以上の結果から(a)野外の自然巣の巣の入り口付近で,Acj働き蜂のグルーミング行動を人為的に誘導することにはじめて成功した.(b)ミツバチ類の社会性行動を解発する因子は,脂肪酸類とそのエステル類,特にダニ由来の混合脂肪酸類であり,これらは激しい異個体間グルーミング行動を引き起こすことが明らかになった.ACJ群の巣門付近では,脂肪酸類に敏感に反応する門番の働き蜂が複数働いていることにより,野外から巣へ戻り帰った外勤蜂が,野外で寄生された体表についたミツバチヘギイタダニを巣内に持ち込む危険性を減少させている.国内学会・国際学会で発表した.誌上発表用にまとめている.
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