2007 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカスにおける文化変容の手掛りとしての英語圏黒人・先住民18世紀テクスト研究
Project/Area Number |
16510190
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
三石 庸子 Toyo University, 社会学部, 教授 (80149335)
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Keywords | オラウダ・エクイアーノ / カリブ / アール・ラヴレス / イギリス奴隷制廃止運動 / 18世紀 / チャールズ・イーストマン / アフリカ賠償運動 / 奴隷体験記 |
Research Abstract |
18世紀のアフリカ人で奴隷としてカリブ、現アメリカ合衆国南部、イギリスを体験し、おもに船員として働きながら自分の蓄えによりついに自由を獲得し、イギリスへ戻ったオラウダ・エクイアーノのテクストを中心に考察した。エクイアーノの記録類を調べたヴィンセント・カレッタが、二つの船員名簿でその生まれがサウスカロライナになっていることを発見し、本人が語っているようにアフリカ生まれでも、中間航路を体験してもいないという可能性が現れて、エクイアーノ論は再考を迫られた。奴隷体験記は奴隷制廃止運動の中で戦略的に書かれたものであり、カレッタの発見によってエクイアーノの体験記自体の意義が消失するものではなく、かえって出生地を虚構として工夫しているという事実によって、元奴隷の主体性がいっそう強力に浮かびあがる。当時のイギリス奴隷制廃止運動の中で、黒人自身が果たした役割は大きかったと思われるし、また19世紀など後の時代の黒人へ与えた影響をみると、エクイアーノのテクストの功績が確信される。 関連して、アフリカからアメリカへ強制的に連れてこられた過去に対して賠償を求めるアフリカ賠償運動をおこなっている、旧イギリス領トリニダード・トバゴの現代作家アール・ラヴレスの小説を考察した。ナイポールはカリブは西洋の模倣でしかないと批判したが、アフロ・カリビアンであるラヴレスは歴史を築いてきた祖先たちの歩みを、自己の確固としたルーツと捉える。アフリカ、カリブ、イギリスをつなぐエクイアーノの体験記は、そうした現在のカリブ人の認識を支える貴重なテクストであることが、理解される。また、19世紀にアメリカ人としての権利を主張した先住民チャールズ・イーストマンの考察からは、アメリカ人として生きることによりかえって先住民としての誇りを持ち続けるという、18世紀のサムソン・オッカムと同様の過程が検証された。黒人・先住民の伝統は生き続けている。
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Research Products
(3 results)