2004 Fiscal Year Annual Research Report
トマス・アクィナス『対異教徒大全』におけるイスラーム思想の受容と変容
Project/Area Number |
16520018
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川添 信介 京都大学, 文学研究科, 助教授 (90177692)
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Keywords | トマス・アクィナス / 『対異教徒大全』 / イスラーム思想 / アヴィセンナ / アヴェロエス |
Research Abstract |
本年度は研究の初年度として、研究対象であるトマス・アクィナスの『対異教徒大全』の中で言及されているイスラームの思想家たちについての基本的情報が踏査された。すなわち、アヴィセンナ、ガザーリー、アヴェロエスなどが、『対異教徒大全』のうちのどのような主題との関連で取り上げられているのか、またその場合のアクィナスによる肯定的評価と否定的評価の両方はどのようなバランスにおいてなされているのか、さらには、アクィナスの『対異教徒大全』以前と以後の諸著作におけるイスラームの思想家の扱いとの一貫性と相違点とが、ラテン語原典読解を徹底することによってなされた。その成果の主要な点は、(1)第1巻と第2巻ではイスラームの思想家たちがほぼ満遍なくどの主題についても言及されているが、第3巻では特定の主題に限定され、第4巻ではほとんど言及がなされていないこと。(2)第1巻では存在論の基本構図を論じた箇所においてアヴィセンナに対する言及が目立つこと。(3)アヴェロエスに関しては、第2巻の知性論と第3巻の幸福論において集中的な議論がなされ批判されていること、である。これらの調査結果をより詳しく吟味していくことが次年度の課題であるが、言及の対象となっている論点はいずれも13世紀中庸の思想状況の中での中心的論点であり、イスラーム思想家たちと格闘がこの著作にとって重要なものであったことは間違いがないと思われる。なお、本研究のために必要なラテン語原典(アラビア語からの翻訳)の主要なものを電子テキスト化する作業も行われた。
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Research Products
(1 results)