2005 Fiscal Year Annual Research Report
トマス・アクィナス『対異教徒大全』におけるイスラーム思想の受容と変容
Project/Area Number |
16520018
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川添 信介 京都大学, 文学研究科, 教授 (90177692)
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Keywords | トマス・アクィナス / 『対異教徒大全』 / イスラーム思想 / アヴェロエス / アヴィケンナ / アリストテレス / 心身問題 / 人間論 |
Research Abstract |
本研究の第2年度にあたる今年度は、トマス・アクィナス『対異教徒大全』第2巻第46章から第90章を占める知性的実体におけるイスラーム思想について集中した検討がなされた。とりわけ、知性的本性を持つとともに、質料・身体を持つ人間の複雑な存在構造の理解において、アリストテレスの基本的原理を引き継ぎつつ新プラトン主義的要素を色濃く持っていたイスラーム圏の諸思想家に対する批判がアクィナスの思想的立場にどのような影響を与えているのかが精査され、当該テキストの翻訳がなされた。その結果、1.アヴェロエスのいわゆる「知性単一説」に対する批判がアクィナスの人間論形成において極めて重要な地位を占めるという、従来からの解釈が確認されたこと、2.だが、それにも関わらずアクィナスがプラトン自身にまで立ち戻りながらより広範な思想圏における人間論を周到に検討しており、とりわけアヴィケンナに対する批判的立場をも明らかにしていること、3.そして、中期著作『対異教徒大全』では、人間論の基本的立場は既に確立されているものの、後期の諸著作に比すれば「存在の共有」という心身関係にとって決定的な理論において、その洗練において未熟な点が残されていること、4.またその未成熟の理由としては、『対異教徒大全』ではイスラーム諸思想への「対人論法」的議論が大部分を占めているために、アリストテレス哲学それ自体の周到な読み直しを欠いていると予想されること、などが明らかとなった。そのような諸点は人間論と深く結びついている幸福論の理解にも大きな影響を及ぼすと考えられるので、研究の最終年度にはこの点の追及がなされることになる。また、本年度もなされた関連テキストの我が国初の翻訳の作業も続けて遂行される予定である。
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Research Products
(1 results)