2006 Fiscal Year Annual Research Report
ジェンダーを視座とするA.コントとJ.S.ミルの社会哲学の再検討
Project/Area Number |
16520020
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
宗像 惠 神戸大学, 国際文化学部, 教授 (40135504)
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Keywords | ジェンダー / 規範 / A.コント / J.S.ミル / 実証哲学 |
Research Abstract |
本年度は、関連文献資料を収集しながら、初年度と次年度の成果を基にして、コントとミルの性別規範に関わる議論を、広く近代初めから現代にまで至る西欧思想史の流れの中に位置づけることを試みた。 17世紀から18世紀にかけての西洋近代の哲学の歴史は、ヨーロッパ地域文化の柱の一つであったキリスト教に依拠した哲学の解体と、それに代わって勃興する経験論と自然主義を基調とする近代科学に依拠した哲学の構築が同時進行する、転換期である。 それに引き続く19世紀は、転換期の後の新哲学の普及の時代であって、いわゆる宗教と科学の対立の時代である。また、産業革命後の産業社会の進展を背景に、市民革命の不徹底を批判して社会主義思想が形成されていった時代である。その反面、性別規範が自明なものとして自然視されて、女性問題が背後に追いやられていった時代でもある。 コントとミルの生きた19世紀という時代は、以上のように西欧近代思想史の中に位置づけることができる。彼らはこの新しい潮流の中で、社会構築の新たな原理となるべき経験科学のみに依拠した哲学を求めて、大規模な思想的集大成を行なった巨人である。 本年度は、このようにコントとミルの哲学を西欧近代思想史の中に位置づけ、さらに性別に関わる彼らの議論を、経験科学のみに基づく新哲学の構築を目指した彼らの哲学体系の中に位置づけて、経験科学と性別規範の関連について検討を行なうことによって、19世紀的近代の終焉とポストモダンな状況の生成が唱えられる現代におけるジェンダー規範に関する論争の意味を、歴史的に掘り下げ新しい光を投じることを試み、いまだ刊行物による公表には至っていないものの、一定の成果をあげることができた。
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