2005 Fiscal Year Annual Research Report
日本における受精卵診断による命の選別の試みに関する問題点の医学哲学的整理と指針
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16520023
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Research Institution | National Institute of Fitness and Sports in Kanoya |
Principal Investigator |
児玉 正幸 鹿屋体育大学, 体育学部, 教授 (90183342)
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Keywords | 受精卵診断 / 着床前診断 / 生殖補助医療 / 筋ジストロフィー / 習慣流産 / 医学哲学 / 生命倫理学 / 医事法学 |
Research Abstract |
大谷産婦人科(神戸市灘区)院長が日本産科婦人科学会に無許可で着床前診断(受精卵診断)を3例実施していたことを公表(2004年2月3日)すると、同学会は会告(1998年)違反を理由に大谷医師を除名した(同4月11日)。同医師は直ちに同学会を相手取り、着床前診断を規制した学会会告の無効確認などを求めて東京地裁に提訴(同5月26日)中である。 2004年以降急展開する生殖補助医療現場の新事態に対して、従来、会告で着床前診断の適応対象を重篤な遺伝性疾患に限定してきた同学会は、厳しい対応を迫られている。着床前診断の臨床応用は目下、その高度先端生殖補助医療技術に期待する患者や彼らの負託に応えようとする医師サイドと、受精卵の選別に障害者差別を訴える各種関係患者団体とのはざまにあって、係争中である。 以上の経緯を踏まえて、論者は「無申請の着床前診断」を実施した大谷医師の着床前診断による受精卵の選別の試みに関する問題点の事例研究を行い、着床前診断の是非について医学哲学的視座(倫理学的・法学的・医学的・社会的4つの総合的視点)から論断した。 その結果、着床前診断の対象を「重篤な遺伝性疾患」に限定する日産婦会や一部マスコミ、着床前診断の前に立ちはだかる関係患者団体から提出された5大懸案を正面から受け止めて、その懸念を払拭し、結論を導き出すことになった。上記趣旨から、本年度の研究成果は新知見・独創性に溢れた内容になった。 着床前診断に付随する5大懸案とは、以下の次第である。 1.着床前診断は障害者差別(優生思想)である。 2.着床前診断は女性に対する抑圧である。 3.着床前診断は生命の選別につながる。 4.着床前診断は実験研究段階で、診断精度は低く、安全性が確立されていない。 5.着床前診断の「適応の暴走」すなわち「商業主義的展開」への歯止め。
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