2004 Fiscal Year Annual Research Report
清朝中国ムスリム学者・劉智『天方性理』における中国思想とイスラーム神秘主義
Project/Area Number |
16520037
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
青木 隆 日本大学, 文理学部, 講師 (20349947)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
東長 靖 京都大学, 大学院・アジア・アフリカ地域研究研究科, 助教授 (70217462)
加藤 茂生 早稲田大学, 人間環境学部, 講師 (30328653)
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Keywords | 劉智 / 天方性理 / 馬徳新 / 馬聯元 / スーフィズム / 存在一性論 / 万物一体 / 儒家思想 |
Research Abstract |
(1)中国伝統思想との対決の様相:従来、劉智をはじめとする中国ムスリム学者は儒家の術語を使用してイスラームの知的営為を表現した、と漠然といわれてきた。詳細な会読と訳注作業の結果、劉智は単に儒家の術語を用いてイスラーム思想を表現しているのではないことが明らかになった。明代の儒家では心性論、万物一体などが盛んに議論されたが、彼はこれらの議論に見られるような問題意識を非常によくふまえて存在一性論的な思想を表現していることが判明した。 (2)イエズス会文献の影響を実証:イエズス会士の著作を読んでいた箇所が発見された。劉智は序文のなかで西洋の書を読んだと述べているが、その真偽あるいは具体的な影響は不明であった。だが自然科学分野の記述において、イエズス会士の著作を参考にしていたことが判明した。明末時期に中国ムスリムが漢語で著述を始めた理由について、これまでイエズス会士の影響があったのではないか、という推測もあった。劉智がイエズス会士文献を参考にしていたことは、そうした推測の有力な状況証拠となろう。 (3)劉智以降の中国イスラーム思想の展開:馬徳薪、馬聯元の『天方性理』解釈は、『天方性理・本経』に対する解釈である。『本経』は劉智が参考にしたアラビア語・ペルシア語原典の再編集・翻訳であり、この『本経』をみずから解説する『図伝』の方がむしろ劉智の思想を明確に伝えるものである。劉智の『図伝』に神秘主義思想の傾向が強いのに対して、彼らの『本経』解釈にはイスラーム法学思想の傾向が強く見受けられる。これは、イスラーム思想史において中世神秘主義思想から、近世の法学思想へと大きな展開があったこととなんらかの関係があると予想される。
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Research Products
(1 results)