2006 Fiscal Year Annual Research Report
清朝中国ムスリム学者・劉智『天方性理』における中国思想とイスラーム神秘主義
Project/Area Number |
16520037
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
青木 隆 日本大学, 文理学部, 助教授 (20349947)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
東長 靖 京都大学, 大学院・アジアアフリカ地球研究科, 助教授 (70217462)
加藤 茂生 早稲田大学, 人間科学学術院, 講師 (30328653)
仁子 寿晴 東京大学, 文学部, 助手 (10376519)
黒岩 高 武蔵大学, 人文学部, 助教授 (60409365)
|
Keywords | 天方性理 / 劉智 / 馬徳新 / 馬聯元 / 存在-性論 / イブン・アラビー / アアヤン・サービター |
Research Abstract |
第3年目となる本年は、『天方性理』の巻二の訳註稿の作成、巻三の会読を中心に行った。 劉智『天方性理』は、イブン・アラビーの存在-性論の影響圏内にあると見られ、神の本体のみが存在するという立場をとる存在-性論では、万物の創造を神の自己顕現の過程としてとらえる。つまり、まず神の内部に万物の恒常的原型(アアヤン・サービター)が出現する段階、神の外部に万物の存在根拠となるマラクートが出現してマラクート界を形成する段階、さらに実際に現象界(ムルク界)に万物が出現する段階の3段階である。 従来の議論では、劉智の万物創造の理論に一応この三つの段階区分を認めることができるけれども、劉智本人は神の内部にある恒常的原型という概念をはっきりととらえておらず、恒常的原型と神の外部の形而上的実体であるマラクートとを混同していたと考えていた。 本年度、この問題に新展開があった。『天方性理』巻2の第5章「理象相属図説」に「義理レベルで分化していることが根拠となって、先天の性理は分化するのだ。義理には眼に見える痕跡が無いので、分化していても分化した痕跡が見えない。しかし渾然一体となった一つの理のなかに、それぞれごちゃ混ぜにならない微妙な区分が当然ある。」という一節がある。「先天の性理」とは、マラクート界に出現する個物の形而上的実体のマラクートを指す。マラクート界の理が個別の理に分化し、その結果、現象界(ムルク界)にそれぞれ個物が出現するに至る。そのときマラクート界の理は、どうして個別の理にそれぞれきちんと分化することができるのだろうか。それは、神の知の中で「義理」が分かれているからなのだ。この「義理」という語が恒常的原型にほかならない。 研究会の議論を通じて、「義理」というタームが、劉智の万物創造理論において恒常的原型の位置にあることが判明した。この結果、清末の『天方性理』アラビア語注釈者たちの解釈が必ずしも『天方性理』本文に即した解釈でなく、注釈者の信じるイスラームの教義の立場からなされた解釈であるということも判明した。
|
Research Products
(3 results)