2006 Fiscal Year Annual Research Report
インド・チベット仏教における中観派による論理学批判の解明
Project/Area Number |
16520044
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
吉水 千鶴子 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 講師 (10361297)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐久間 秀範 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 教授 (90225839)
小野 基 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 助教授 (00272120)
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Keywords | インド仏教 / チベット仏教 / 仏教思想史 / 中観派 / 論理学 / 写本 / プラサンナパダー / シャン・タンサクパ |
Research Abstract |
平成18年度の研究実績として、以下の成果が挙げられる。 1)『中観明句論註釈』の写本校訂テキスト作成 (1)第1章(部分) (2)第14章 2)『中観明句論註釈』第1章の内容解明 チベットでは、ナーガールジュナ(2世紀)を祖とする中観派は、その教義の論証方法をめぐる議論と対立によって、ブッダパーリタ(5世紀後半から6世紀)、チャンドラキールティ(7世紀)に始まる「帰謬(論証)派」とバーヴィヴェーカ(6世紀)に始まる「自立(論証)派」に分派したとされ、現代の研究者もその区分を用いて中観思想史を理解している。しかしながら、この区分はチャンドラキールティらの当事者によっては為されておらず、インドで分派があったという確証もない。チベットにおいては、チャンドラキールティの著作を翻訳したパツァプ・ニマタク(1055-1115?)が導入したとされるが、それも確認されていない。また、「帰謬論証」「自立論証」の定義も様々で、本来それが目指していたものは明確ではない。これらの中観思想史の疑問点に、パツァプの直弟子と言われる『中観明句論註釈』の著者シャン・タンサクパがどのような解答を与えてくれるかに焦点を合わせ、さらにチャンドラキールティの『明句論』サンスクリット語原典の読みで現在学界で議論されている問題解明に寄与する箇所をピックアップして、第1章の内容を解読した。その結果、以下の知見が得られた。 (1)シャン・タンサクパは、ナーガールジュナの思想に従う中観論者は「帰謬論証」のみを用いるべきであり、「自立論証」を用いる者は正しい中観論者ではない、と考え、二派の区分を容認しない。「自立論証を用いる者」つまりバーヴィヴェーカを「中観派」に含めるべきかどうかについて、当時は意見が分かれていたと推測される。 (2)シャン・タンサクパによれば、「自立論証」は「論証対象について立論者と対論者双方に確実な認識手段によって成立している論証因によって行う論証」であり、「帰謬論証」とは「相手の矛盾を述べるもの」である。 (3)『明句論』第1章のバーヴィヴェーカによるブッダパーリタ批判の「修正見解」とそれへのチャンドラキールティの再反論とされる部分について、「自ら立論する者」と考えられているのは「中観派」か「サーンキヤ学派」か、という研究者間の解釈の相違について、シャン・タンサクパは後者の見解を取っていることが明らかとなった。
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Research Products
(3 results)