2004 Fiscal Year Annual Research Report
近現代のチェコにおけるオペラ創作とナショナル・アイデンティティの構築
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16520081
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
内藤 久子 国立大学法人鳥取大学, 地域学部, 教授 (60263456)
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Keywords | 国民オペラ / ナショナル・アイデンティティ / チェコ国民楽派 / 民族復興運動 / 伝統意識 / 文化的記憶 / スラヴ的特性 / フス派のコラール |
Research Abstract |
本研究は、中欧の小国チェコにおける19世紀から20世紀に至る近現代の劇音楽を対象に、ナショナル・アイデンティティの構築という視座から、オペラ創作における「チェコ的特性」に関する根本的課題について考察するものである。研究の初年度にあたる平成16年度においては、まず19世紀ドイツ・オペラの影響のもとに、特にボヘミア楽派の作曲家たちが劇作品を通して、より具体的に、如何なる内容性ないし標識をもってナショナル・アイデンティティを表出しようとしたのかを明らかにする為に、当時、民衆の多くが音楽表現の最高ジャンルと目していた「国民オペラ」樹立への道を詳細に辿る中で、オペラの「大衆化」の問題にも言及しつつ、18世紀末から19世紀前半に生じた「文化による民族再生」を志向する「民族復興運動」について、その背景となった国内外の社会史的状況を丹念に跡づけた上で、ボヘミア人による民族意識の高揚の過程、ならびに文化的復活について研究を進め、それを学内の地域研究会で纏め発表した。こうしてチェコ人のナショナル・アイデンティティの中核をなすフス教徒革命やチェコ建国の神話などの、いわゆる歴史的記憶の活用、および民俗文化と高踏文化の相互関係性の問題について新たな知見を得ながら、スメタナの国民的オペラ《リブシェ》、ドヴォルジャークのロマン主義オペラ《ルサルカ》や他のスラヴ的オペラ作品について分析しながら、特にドヴォルジャーク研究では、それらの成果を含む『作曲家◎人と作品シリーズ ドヴォルジャーク』(音楽之友社)と題した単著を出版するに至った。 このように本年度は、一連の「チェコ・オペラ」の創造と発展を通して、チェコ人民のアイデンティティ構築の問題を政治・社会、作曲家の生涯・思想、作品の内容分析などの点から総合的に捉え、「国民楽派」におけるチェコ・オペラ創造の深層を周辺部分からも明らかにしていった。これらの詳細な考察にあたり、(入手した)『新グローブ世界音楽大事典 第2版』(英語新版)に包括された最新の詳細な個々の研究内容や、「近現代のチェコ文化史及びヨーロッパ文化史」に関する多数の諸文献は、チェコ音楽文化史研究を進める上できわめて有用となった他、チェコ音楽研究をヨーロッパ文化史や社会史・政治史などの脈絡に照射して研究・考察する上で、伝統意識、スラヴ的特性と国民オペラとの関係性をより包括的に検討することを可能とした。
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Research Products
(2 results)