2006 Fiscal Year Annual Research Report
アリストテレース『詩学』と『弁論術』の比較に基づく新たな芸術存在論の構築
Project/Area Number |
16520085
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
津上 英輔 成城大学, 文芸学部, 教授 (80197657)
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Keywords | 美学 / 西洋古典学 / 哲学 |
Research Abstract |
アリストテレース『詩学』において提示された「蓋然的ないし必然的な」できごと連鎖の存在論的分際を,『弁論術』における「エンテユーメーマ(蓋然的推論)」の論を参照しつつ解明するのが,本研究の目的であった.この研究により,芸術世界と現実世界の存在論的関係に光が当てられ,最終的には,芸術という営みが我々の現実の生にとっていかなる意味を持つかについて,ひとつの理解が得られるはずである. 本年度の研究では,『弁論術』の文献学的読解に一段落をっけることができた。その中で、必ずしも本研究課題の中心主題ではないが、一般的見地から重要と思われるhybrisの概念に、一つの見通しを持つことができた。それはすなわち、『弁論術』第2巻第2章1378b23-31の議論である。これはhybris概念規定のlocus classicusとされるが、その写本の読みは編者ごとに異なっている。私としては、25行を写本通りにautoi(hautoiではなく)と、またe ho ti egeneto(Ross)ではなくe hoti egenetoと読むことによって、この箇所を、「相手に恥をかかせることを目的とするのではなく」と理解できることを確認した。この場合、hybrisの目的は、相手を傷つけたり恥をかかせたりすることにあるのではなく、みずからが相手に優越していることを確認することにあることになる。結局、全体として、この概念は「暴行」や「侮辱」ではなく、「傲慢」と訳しうるのである。本年度はこの着想を論文化する時間的余裕がなかったが、平成19年度の研究で、この問題を、できれば英語で論文化したいと考えている。
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Research Products
(1 results)