2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16520098
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
西村 聡 金沢大学, 文学部, 教授 (00131269)
|
Keywords | 能楽 / 近代能楽史 / 地方能楽 / 金沢能楽会 / 能楽雑誌 / 大鼓飯島家 / 地域伝承 / 加賀宝生 |
Research Abstract |
加賀藩時代町役者の家柄で明治維新後も金沢にとどまって葛野流大鼓方の芸を十代継承する飯島家の歴史を記述する『大鼓役者の家と芸-金沢・飯島家十代の歴史-』 (長山直治と共著)が刊行され、六代目からあとの近代・現代分を担当・執筆した。資料としては飯島家歴代の言葉(随筆・聞き書き等)や彼らに言及した文献、番組原本や種々の能楽雑誌、新聞記事等である。それらを網羅的に収集すること自体に意義があると考えるが、それらを分析しで得られた具体的成果としては、早世ゆえに地元での認知度が低かった七代佐六の事績が東京での活動を中心に詳細に把握できるようになったこと、七代を失った六代佐之六が八代佐六(後の六之輔)をどう育成し、芸の継承に腐心したか、それ以前からも含めて佐之六自身の活動は東京や他地方とどう交流し、拡大・収束したか、が資料によって跡づけられたことなどを挙げてよいであろう。藩政期の扶持役者たちは明治維新を機に能楽から離れるか、または上京して流儀の中核となった。つまり金沢の能楽史には近世と近代の間に断絶があり、地方の近代能楽史は新たな担い手たちが再興し、発展させたのであるが、その断絶を埋める存在が唯一飯島家であり、同時に新たな担い手たちを率いて諸地方にも進出して、近代能楽史の地方展開の重要な位置にもあった家であることが明確になった。なお『金沢市史通史編2近世』の能楽関係章を担当・執筆して、加賀藩時代の能楽のあり方を、とくに藩主の稽古始めや文化奨励策の視点から記述した。もう一つの論文「近代<安宅>論議と地域伝承史」では、地元を舞台とする能の<安宅>の詞章中の「鳴るは滝」をめぐって、これを金沢の地名と見なす議論の展開を、近世・近代の地域伝承史に追跡した。謡曲享受史の地方的、近代的特徴が浮かび上がる問題であり、当然、同時代の能楽の盛衰とも関連し、本研究にとっても重要な視点となり得るものと考えている。
|
Research Products
(3 results)