2005 Fiscal Year Annual Research Report
フランス近世・近代文学における歴史的断絶の表現(シャトーブリアンを中心に)
Project/Area Number |
16520134
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
水林 章 東京外国語大学, 外国語学部, 教授 (80183630)
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Keywords | ヴォルテール / 『カンディード』 / 戦争 / テクスト分析 / 啓蒙 / 自律的主体 / 兆候的読解 / ボーマルシェ |
Research Abstract |
昨年度の報告書で,わたしは,シャトーブリアンを本格的に読み進める前に,その前の世代にあたる啓蒙時代の作家たちを検討するにあたって,ヴォルテールの『カンディード』を取り上げたところ,そこには以外に大きな鉱脈が存在することを発見したことを述べた.歴史的転換の文学的表現というテーマにそって,ヴォルテールの『カンディード』のテクストを詳細に検討する作業を行ったのである. 具体的には,第三章における「戦争」の表象,第一章における中世的な秩序の崩壊と近代的な秩序の生成の問題をとりあげたわけだが,その分析結果が予測を裏切るほど豊かな内容をもつものに思われたので,わたしは,それを小さな書物にまとめることを決意し,そのことを昨年の報告書で予告した. 本年度は,まずその作業にとりかかったが,本をつくるという作業は非常に多くの労力を要し,著書『『カンディード』<戦争>を前にした青年』の執筆が終わり,首尾良くみすず書房より刊行されたのは7月のことであった.この書物は小さいながらも今回の科学研究補助金によって生み出すことができた成果の一部であると自負している.加うるに,わたしのこの試みが,他の研究者とみすず書房を刺激し,この研究を支える発想にもとづいたひとつの叢書(「理想の教室」)を生み出すことになったことを特記しておきたい. 『『カンディード』<戦争>を前にした青年』をわたしはふたりの作家を意識しながら執筆した.ひとりは,言うまでもなくシャトーブリアンであり,もうひとりは戯曲『フィガロの結婚』を著したボーマルシェである.なぜこの二人なのかといえば,カンディードに見られる青年主人公がシャトーブリアンの『ルネ』の「ルネ」やボーマルシェの「フィガロ」にどのように受け継がれていったのかが重要な意味を持つからである.年代的には,ボーマルシェの方が一世代若いので,本年度は,『『カンディード』<戦争>を前にした青年』の出版後は,もっぱらボーマルシェの『フィガロの結婚』における青年像を中心に研究を進めることになった.シャトーブリアンを研究の中心にすえる計画は大幅な軌道修正を余儀なくされたといわなければならない.2006年はモーツァルト生誕250年にあたる年であることからも,来年度は「フィガロの結婚」が重要な位置をしめるであろう.
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Research Products
(1 results)