2004 Fiscal Year Annual Research Report
『マージェリー・ケンプの書』の成立過程:聖ブリジット列聖をめぐる諸霊の識別の問題
Project/Area Number |
16520142
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
久木田 直江 静岡大学, 人文学部, 教授 (00271693)
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Keywords | Margery kampe / St Bridget of Sweden / Julian of Norwich / discrepio spirituum / Alfonso of Jaen |
Research Abstract |
本研究は、ブリジットの列聖審議を通して諸霊の識別の問題と『マージェリー・ケンプの書』の成立過程を調査・研究するものであるが、本年度は聖ブリジットの列聖問題と諸霊の識別(discretiospirituum)についての基礎的研究である中世の教会が教義として発展させた「聖霊の識別」を検討した。諸霊の識別は本質的には主観的に感じる経験にあるが、中世末期にかけてこの賜物を受ける者の外的状況を精査する神学的規準が整えられた。この調査にあたっては、同時代の共通認識としてスペインのハエン司教アルフォンソが著したEpistola solitarii ad reges(以下 Epistola)を参考とした。Epistolaはアウグスチヌスやトマス・アキナスの神学をもとに、アルフォンソが諸霊の識別の規準を系統立ててまとめた論文で、ブリジットの霊的指導者でもあったアルフォンソはブリジットの列聖に奔走する中で幻視者ブリジットと彼女の著作『啓示』の正統性をこの規準を用いて主張した。Epistolaは聖ブリジットの列聖審査や、列聖に異議を唱えるジャン・ジェルソンが霊動の修練について著したDe Probatione spirituumにも影響を与えた。さらに、この論文はノリッジのジュリアンやアラン・オヴ・リン等マージェリーの霊的指導者たちにも知られていたと考えられる。よって、本年度はEpistolaを検討した上で、マージェリーの諸霊の識別に直接的に影響を与えたノリッジのジュリアンについて論考した。研究の成果は‘"Discretio spirituum" in Time : The Impact of Julian of Norwich's Counsel in the Book of Margery Kempe' in Medieval Mystical Tradition In England, ed. by E. Jones (Cambridge: D. S. Brewer,2004)に掲載されている。
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