2006 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀後半のドイツ諷刺文学における主体の表出の諸相
Project/Area Number |
16520150
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
亀井 一 大阪教育大学, 教育学部, 助教授 (00242793)
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Keywords | ドイツ文学 / Theodor Gottlieb v. Hippel / Jean Paul Fr. Richter / Uber die Ehe / 匿名性 / 作者 / 近代芸術の主体 / 諷刺 |
Research Abstract |
平成18年度は、ヒッペル(Theodor Gottlieb Hippel,1741-1796)を中心に、匿名性という観点からテクストの主体と作者の関係を考察し、課題研究全体をまとめた。諷刺作者の匿名性は、テクストの社会批判な要素が誘発する攻撃から身を守る手段(作者の社会的、文学外的な事情を反映するもの)としてではなく、テクストの主体と作者との懸隔を暗示する徴(文学的な意味をになうもの)として捉えられる。このことを明らかにするために、ヒッペルが匿名で発表した論文『結婚について』(Uber die Ehe)を取り上げた。この論文は、1版(1774)と4版(1793)とのあいだにかなりの補筆があり、通説では、論文『女性の市民的な地位向上について』(Uber die burgerliche Verbesserung der Weiber,1792)との関連で、特に、晩年の改訂版に急進化した作者の思想が反映されているとされる。しかし、『結婚について』4版で『女性の市民的な地位向上について』を参照している箇所を分析してみると、参照元のテクストにある急進性がむしろ換骨奪胎されていることがわかった。そこで、さらにジャン・パウル『見えないロッジ』(Die unsichtbare Loge,1793)に特別ページとして収録されている諷刺テクスト『藁冠演説』(Strohkranzrede eines Konsistorialsekretars[...])と比較分析し、このような韜晦が、作者の思想の揺らぎに由来するものではなく、作者から言表主体が乖離しているため生じたことを考察した。テクストが虚構である以上、テクストの主体も虚構のなかで生成する。作者の匿名性は、作者の意図に直接関与しないテクストの働きを承認する積極的な意味を含んでいるということができるのである。
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Research Products
(1 results)