2005 Fiscal Year Annual Research Report
ラカン・クリステヴァの精神分析的視点からの文学表象理論の構築
Project/Area Number |
16520153
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
枝川 昌雄 神戸大学, 文学部, 教授 (60031374)
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Keywords | 昇華理論 / 現実界 / ラカンの<もの> |
Research Abstract |
ラカンとクリステヴァの精神分析理論を文学の表象理論に応用し、新たな文学理論を構築するために、今年度試みたのは、以下の諸点である。 1 フロイトが芸術活動を説明するために、精神分析に導入した概念が「昇華」である。「昇華」とは、欲動が性的目標を目指さず、社会的に価値ある活動に振りかえる事態を指すが、従来の精神分析的な芸術解釈は、おおむねこの観点からなされてきた。 2 ラカンによって、このような昇華理論は一新された。すでにフロイトは、芸術、宗教、科学という昇華の3形態を、ヒステリー、強迫神経症、パラノイアと結びつけていたが、ラカンはこれを、神経症、倒錯、精神病に編成し直す。ラカンにとって、芸術とは、対象を、享楽をもたらす、崇高な<もの>の尊厳にまで高めるものである。<もの>と、それが位置する「現実界」という、ラカン思想の枢軸となる概念を究明し、そこで働く昇華のメカニズムを、ラカンのジョイス論である、『セミネール第13巻(サントーム=症状)』に探っていくのが、目下の課題である。 3 科研費を使用して渡仏した折に、クリステヴァのセミネールに参列することができたが、彼女のテーマの一つは、聖女テレーズ・ダヴィラなどの神秘主義者の言述の精神分析的な分析である。クリステヴァを踏まえて、この宗教と芸術という二つの領野をラカンの昇華理論を参照しながら捉えていくのが、もう一つの課題である。 昨年秋に、かなり重い病いを得たために、投稿予定であった原稿を仕上げることができなかった。体調も徐々に回復しているので、研究成果をまとめたい。
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