2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16520174
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
福井 千春 中央大学, 経済学部, 教授 (40256011)
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Keywords | 武勲詩 / 古文書学 / 中世スペイン文学 / カスティリャ王国 |
Research Abstract |
スペインの中世叙事詩『わがシッドの歌』Cantar de Mio Cidは12世紀末〜13世紀初頭、遅くとも1207年までに書かれている。中世叙事詩もしくは武勲詩ともいう。イスラムとの国土回復戦争を背景に、揺籃期のカスティリャ王国の伝説的英雄シッドの勲功をうたい上げたもの。作者不詳。マドリッドの国立図書館に所蔵される唯一の写本は、3733行の詩行が連続して書かれた74葉の羊皮紙から成るが、惜しむらくは第1葉が欠落しているために、書き出しはもとよりタイトルすら分からない。最後の2行に「ペル・アバットが1207年5月これを記す」とあり、作者ならびに制作年代決定の重要な手がかりとなっている。ほぼ1世紀に渡る論争を経て、この写本の制作年代が1207年であることは共通の見解となったが、ペル・アバットなる作者が1207年にこの作品を創作したのか、同名の写字生が1207年に別の作品から書き写したものであるかについては、未だに議論が別れている。 従来、匿名の吟遊詩人によって、口承によって、しかも即興で制作されたと考えられてきた。自然発生した歌謡が、吟遊詩人によって朗誦される度に改良を加えられ、蓄積し、現在の姿になったとする伝承説である。しかし、近年、詩の表現の中に垣間見えるギリシア・ラテン文学の伝統、また法律用語の多用などから、おそらく学僧、少なくとも古典文学の知識のある詩人が書下ろしたとする個人創作説に傾きつつある。本研究では『わがシッドの歌』の源泉になったと思われるラテン語の年代記、逆に派生したと思われるスペイン語の年代記との関係を考察する。
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Research Products
(1 results)