2006 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀末ドイツの思想シオニズムに英国文化はどのように関っているか。
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16520181
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
度会 好一 法政大学, 国際文化学部, 教授 (00054338)
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Keywords | シオニズム / イギリス文化 / 反ユダヤ主義 |
Research Abstract |
「パレスチナにユダヤ人の民族的郷土を建設する為に最善の努力を払う」。このような趣旨のバルフォー宣言は、一貫した政策から生まれたのではなく、二月革命後のロシア対策と、戦争に協力しない国内のロシア系移民対策として、ロシア、アメリカ、イギリスのユダヤ人を戦争継続の方向に引っ張ろうとしたロイド・ジョージ首相の政治的な賭けであった。この賭けは十月革命によって見事な失敗に終わる。しかし、宗教的・文化的な背景から見ると、ユダヤ人がクロムウェルの黙認政策によって再入国した一六五六年以前にまでさかのぼる、長い伝統から生まれてきたことが分かる。すなわち、パレスチナはユダヤ人が神から授かった土地であり、ユダヤ人はキリスト教に改宗することによって神の赦しを得て、再度パレスチナにユダヤ人の王国を立てるという「復帰論」の系譜である。この系譜は、詩人のミルトン、科学者のニュートン、経験論者のロックらを通じて連綿と続き、一九世紀半ばには、ミットフォードのユダヤ人国家論にまで成長する。彼の構想は、パレスチナのアラブ農民を強制移住させて、少数派のユダヤ人を多数派に育てようという案である。シオニストがイギリス政府に示したバルフォー宣言の原案も、これに似た「パレスチナ再構成案」であり、バルフォーもロイド・ジョージも復帰論の根強い福音主義の伝統に育った。このように見れば、バルフォー宣言は、キリスト教シオニズムと言えるような、シオニズムに近い精神風土から生まれた首尾一貫した文化的産物だったと言えるだろう。
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Research Products
(1 results)