2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16520193
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
清水 一嘉 愛知大学, 文学部, 教授 (70312105)
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Keywords | ニューカースル / アニック / 地方出版 / 出版流通 / 奥付(コロフォン) / ブックス・イン・プリント / 出版者カタログ / 出版趣意書 |
Research Abstract |
本年度は夏休みの6週間をオクスフォードで過ごし、ボドリアン・ライブラリーに通って文献の収集・調査にあたるとともに、イギリス北部の町ニューカースル・アポン・タインとその北に位置するアニックを訪問し、前者ではトマス・ビューイックの印刷工房のあった周辺をつぶさに見ることができ、昔の町並みがいまも残るアニックでは、さいわいこの地で印刷工房を営み本や新聞を発行したトマス・デイヴィッドソンの展示会がアニック城近くの小さな博物館で行われているのを知り、活字、チェース、手引き印刷機、印刷された新聞やビラ等、多くの貴重な展示物を見ることができた。今回のニューカースルとアニックの訪問では、これらの町を中心とするイギリス北部の出版と流通のすがたを実感として肌で感じることができ、貴重な体験であった。 今年度の仕事として一定の成果をあげたのは、18世紀の出版流通を知る上で重要な鍵を握る出版物の奥付(コロフォン)の調査である。出版物の多くがロンドンを出版地とするのは自然だが、18世紀にはロンドンのほかに複数の出版地を持つ本が少なくなかった。そのようなばあい、奥付に印刷された地方の出版者はいったい何を意味し、どのような役割を果たしたのか。これを本の流通の面から考えるときわめて興味深い結果が見えてくる。イギリス北部の出版と流通を考える上でも大切な課題である。 これと関連して、地方の読者はどのようにして出版の情報を知ったのかについて検討しておく必要がある。かれらの情報源は4つある。(1)ブックス・イン・プリント、(2)新聞の広告、(3)出版者のカタログ、(4)出版趣意書の4つである。新聞の広告や出版者のカタログは現在でもあるが、18世紀にブックス・イン・プリントが不十分な形ながら刊行されていたこと、また出版趣意書が広く慣行化していたことは注目に値する。
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