2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16520193
|
Research Institution | Aichi Unviersity |
Principal Investigator |
清水 一嘉 愛知大学, 文学部, 教授 (70312105)
|
Keywords | 18世紀イギリスの出版 / ニューカースル / 出版流通 / チャップブック / バラッド / 一過性印刷物 / 地方新聞 / 新聞エイジェント |
Research Abstract |
私は、過去3年間にわたってイギリスの出版流通、とりわけ18世紀から19世紀にかけて出版史上最も変化に富んだ時代の出版流通について調べてきた。今年度も夏休みを利用して主としてオックスフォードに滞在し、各種資料を調査収集したが、科研費最後の年にあたるのでなるべく多くの時間を執筆に割いた。 イギリスの出版史家ジョン・フェザーは指摘している。18世紀イギリスの地方出版を研究するにあたって、北部の文化都市ニューカースル・アポン・タインの調査は不可欠であると。このことはこれまで暗黙裡に了解されてはいたが、これを正面から研究する者はいなかった。その理由のひとつは資料の欠如にあったと考えられるが、近年ニューカースル・アポン・タイン大学を中心とするイギリス北部出版史学会が地道な調査と研究を重ね、これまでヴェールに包まれていた地方出版の実態を明らかにしてきた。 私はそれらの成果に助けられながら、この町とその周辺、さらにはイギリスの地方全体の出版活動と流通について調査研究してきた。地方の出版で重要なのは、その活動がロンドンとは違い本の出版にあるのではなく、チャップブックやバラッドの出版、一過性の印刷物の印刷にあったことである。これらのほか、資金と才覚のある者は新聞の発行に手を伸ばした。そしてこの新聞の発行こそ出版流通上できわめて重要な意味を持ってくるのである。なぜなら、ロンドンで出版される本は新聞の流通ネットワークを通して地方の読者の手に渡ったからである。出版者は地方の新聞発行者と契約を結び、傘下にあるエイジェントを通して、ひいてはエイジェントが雇うニューズマンを通して本を地方の読者にとどけた。ときに郵送ということもあったが、時代とともに新聞流通網にたよる方が多くなっていった(エイジェントは新聞や本ばかりではなく各種の商品を扱った)。 ニューカースルは18世紀を通してチャップブックやバラッドの発行地として傑出していた。新聞や本どは違い、これらを流通させたのは各種雑貨を売り歩く行商人(チャップマン)であった。ニューカースル!は北はスコットランドへ南はイギリス北部諸州へ通じる拠点として流通の重要なかなめである。同時にロンドンにつぐ北部諸州の中心として地方文化の発展に寄与するところ大であった。
|