2004 Fiscal Year Annual Research Report
T・S・エリオットの詩における2種の「抽象」-構成主義と普遍性
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16520206
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
長畑 明利 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (90208041)
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Keywords | T. S. エリオット / 抽象 / 死 |
Research Abstract |
平成16年度には主として、「抽象」の観点から見たエリオットの詩と評論および書簡の再検討を行った。より具体的には、エリオットの初期の詩作品、評論および書簡のうち「抽象」および「死」に関するものを再読し、そこに見出される両者の関係について検討した。ことに先輩詩人エズラ・パウンドがコメントを加えたエリオットの詩草稿はこの点において重要であり、1921年、22年前後のエリオットとパウンドの関係についても再検討した。パウンドとエリオットは、エリオットの詩作品について検討する際に、死後世界をめぐるやりとりを交しており、それが両者の「抽象」についての考察を深めた可能性があるからである。この点をより明らかにするために、12月にニューヨーク市立図書館にて文献調査を行い、同図書館が所蔵するエリオットの詩草稿に加えられたパウンド、エリオット双方のコメントの研究を行った。(また、フィラデルフィア近代美術館にて、同時代のモダニズム美術についての調査および資料収集を行った。) これらの研究により、「非人称の詩論」に端的に表れるエリオットの「抽象」観と、ポリフォニックな「死者の声の再現」の試みに結実する彼の「死」に対する関心の接点が、初期の詩作品「死者の囁き」他をめぐりパウンドとのやりとりを通して形成されていく様を部分的ながら明らかにすることができた。その背景には、当時流行していたオカルトへの関心が示唆され、今後、イェイツをはじめとする同時代の詩人たちのオカルトに対する関心が1921年前後のエリオットにどのような影響を与えたかを明らかにしつつ、研究を進めていく必要が生じた。平成17年度にはこの作業を進めるとともに、彼の初期の哲学的探求とこうしたオカルト的関心との関係を明らかにする作業をさらに深め、調査の結果を論文のかたちにまとめる予定である。
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Research Products
(1 results)