2005 Fiscal Year Annual Research Report
T・S・エリオットの詩における2種の「抽象」-構成主義と普遍性
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16520206
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
長畑 明利 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (90208041)
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Keywords | T.S.エリオット / 抽象 / 死 |
Research Abstract |
平成17年度には、前年度より継続して、「抽象」の観点から見たエリオットの詩と評論および書簡の再検討を行ない、エリオットの初期の詩論と、「抽象」および「死」に関する彼の思索との関係を精査した。また、彼の詩論の形成におけるパウンドの「漢字的抽象」の影響についてもさらに検討を進めた。これらの作業により、次のことが明らかになった。(1)エリオットの構成主義的な抽象観は、「伝統と個人の才能」や「ハムレット」などの初期の評論に顕著であること。(2)このタイプの抽象観は、パウンドの「漢字的抽象」の議論に通底し、そこには影響関係が認められると考えらること。(3)しかし、エリオットにはその宗教意識に根ざす形而上的世界及び死後世界への強い関心があり、これが彼の普遍主義的な統合への関心に連結されていること。(4)その形而上的世界への関心は、「構成主義的抽象」に対するエリオットの関心が低減した後にも維持され、これが彼の後期の詩と詩論の一つの核をなすこと。(5)「構成主義的抽象」に対するエリオットの関心の低減と連動するかたちで、パウンドとの距離が生じたこと。 (なお、上記の作業と平行して、エリオットの初期詩篇の翻訳作業も行った。) 上記の知見は冊子体の研究成果報告書にまとめ、またエリオットとパウンドの関係については、共編著書『記憶の宿る場所-エズラ・パウンドと20世紀の詩』(思潮社)所収の論考にその一部を記述した。また、7月には国際エズラ・パウンド学会(イタリア、ラパッロ市)にて研究発表を行い、モダニズム詩と「抽象」の問題について参加者と意見交換した。なお、計画していた研究のうち、エリオットの初期の哲学的探求と同時代の作家・詩人たちに共有されたオカルト的関心との関係を明らかにする作業は不十分なままとなった。今後の研究で進展させていく計画である。
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Research Products
(6 results)