2006 Fiscal Year Annual Research Report
EUにおけるドイツ語の地位-複数のドイツ語標準変種とEUの言語政策
Project/Area Number |
16520268
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
高橋 秀彰 関西大学, 外国語教育研究機構, 教授 (60296944)
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Keywords | EU公用語 / 言語コーパス政策 / 言語ステータス政 / 多言語主義 |
Research Abstract |
1952年に欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が発足する際、フランスは共同体の公用語をフランス語にすることを提案し、イタリアとオランダの賛同を得たものの、西ドイツの強い反対によりこの提案は却下され、加盟国の4公用語(イタリア語、オランダ語、ドイツ語、フランス語)全てを共同体公用語とすることが決まった。以降、加盟国の公用語(複数ある場合は1言語)は全てEU公用語にする原則が定着するが、1973年に英国がEUに加盟により英語がEU公用語に加わることにより、大言語間の言語ステータス政策が活発になった。特にフランスが積極的であったが、コール政権(1982年〜1998年)になってからは(西)ドイツもドイツ語の地位向上を求める動きを展開することなった。他方、同じドイツ語国であるオーストリアは、1995年のEU加盟に際して、Protocol No.10により食料品に関する23語をオーストリア変種としてドイツ語の一部に加えることに成功した。ドイツは、EU内におけるドイツ語の地位向上に向けての言語ステータス政策を展開するのに対して、オーストリアは複数中心地言語の理論に依拠してドイツ語の多変種主義を重視する言語コーパス政策を推進している。弱い立場にあるオーストリアは自らの標準変種確立を通じて上位変種に対抗する政策を繰り広げて独立国としてのアイデンティティ確立を図っている。このような多変種主義は言語の多様性を擁護するEUの方針に合致するが、ドイツ語全体の地位向上には不利である。オーストリアの政策は、ごく一部の変異形を義務規範として法的に認可させることにより、オーストリア変種の存在を周知させることが主たる目的で、非母語話者による使用まで予期するものではない。国益とドイツ語共同体の間で揺れ動く構成国は、多言語主義を旨とするEUの理念との整合性を見出すことがまだできない状況にある。
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Research Products
(2 results)