2005 Fiscal Year Annual Research Report
日本語複合動詞の研究:認知意味論を基盤とする日本語学習者習得支援への提案
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16520320
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
松田 文子 お茶の水女子大学, 大学院・人間文化研究科, 助手 (60361820)
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Keywords | コア図式 / 日本語動詞「とる」 / 複合動詞「とり〜」 / 認知意味論 / 前項動詞 / 認知図式 |
Research Abstract |
本研究は、第二言語習得として日本語を学ぶ学習者に対する複合動詞の習得支援のための基礎研究として行っているものである。本年度は以下の2点の研究成果を得た。まず昨年度から引き続き行っている「とる」の意味に関する論考を掲載論文として発表し、その成果を一歩進めて「とる」を前項動詞とする複合動詞「とり〜」の意味についても考察を行い、これも掲載論文として印刷中である。また「ひっかける」などの前項動詞となる「ひく」の考察を行い、「ひく」の論文は現在投稿中である。 (1)本動詞「とる」の意味(『日本語科学』印刷中) 本論文は前年度「投稿中」として報告したものである。前年度も述べたように本研究では認知意味論の手法の一つである「コア図式論」を援用して、「とる」の多義的な意味を統一的に説明する原理を探った。その結果、「とる」の意味は実に単純な一つの認知図式(コア図式)で表すことができ、「とる」の多様な文脈上の意味は丁度インクのシミの見え方が角度によって異なるように、その認知図式のいずれかの側面が前景化したものであると説明できることを示した。学習者は「とる」のイメージ図を介在させて「とる」の多義を理解することにより、ひとつのイメージで「とる」の意味世界を把握することができるようになることが期待される。 (2)複合動詞「とり〜」の意味(『世界の日本語教育』印刷中) 本論文では多義動詞「とる」を前項とする「とり+後項動詞(V2)」を取り上げている。「とり+V2」は「財布とり出す」「ゴミをとり除く」のように「とり」に本動詞「とる」の意味がそのまま引き継がれているものと、「先生をとり囲む」「靴をとり揃える」のように「とる」の意味は希薄化しているようにみえるものがある。本稿では、このいずれの場合であっても日本語母語話者の「とり+V2」の意味づけは本動詞「とる」のコアをベースになされていると仮定し、母語話者を対象とした調査データからこの点を明らかにした。具体的には、「囲む」と「とり囲む」のような「単純動詞」と「とり+V2」の意味的差異に着目した調査をおこない、その結果から母語話者の「とり+V2」の意味理解は「とる」のコアがさまざまな形で反映していることを示した。またこれと併せて非母語話者についても同様の調査をおこない、非母語話者は「とり+V2」の意味をどのように捉えているかを観察した。その結果、非母語話者の捉え方には母語話者とは異なる特徴がみられた。
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Research Products
(2 results)