2005 Fiscal Year Annual Research Report
近世北日本における地域市場の形成と変質過程に関する研究
Project/Area Number |
16520380
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
渡辺 英夫 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (20191786)
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Keywords | 北日本 / 地域市場 / 流通 / 交通 / 海運 / 地域間交流 |
Research Abstract |
本年度は平成16年度から同18年度にわたる研究計画の第2年度に当たる。 本科学研究費補助金により、北海道立図書館、青森県立図書館、野辺地町歴史民俗資料館、新潟県村上市郷土資料館、国立公文書館などに赴き、関連史料の調査を行い、北日本海運史関係のマイクロフィルム史料も購入した。また、別予算により、函館市立中央図書館、青森県八戸市史編纂室、富山県射水市新湊博物館などにも出向き関連史料を収集した結果、研究の糸口を掴むことができた。分析の詳細は次年度に期待し、現状では大凡次のような見通しを立てることができた。 蝦夷地北海道の魚肥や長崎輸出品を求め、上方資本や北陸地方の船主たちが、船団を組んで蝦夷地に向かうことは知られており、今回の調査でも、それを裏付ける沢山の史料を集めることができた。近世後期、蝦夷地漁業は日本海側から樺太、そしてオホーツク沿岸から知床、根室を経て函館に至るまで蝦夷地のあらゆる海域に展開していく。蝦夷地は漁業生産の現場であり多くの労働力がここに集中した。この労働市場が北日本経済の核となって展開していく。アイヌの人々と和人労働者の生活と生産を維持するため、あらゆる必需物資が北日本から送り込まれていった。それは、米や酒などの食料であり、藁や筵、魚網など様々な道具類であった。陸奥湾沿岸の諸湊や鰺ヶ沢、能代、土崎など日本海沿岸の諸湊がその積み出し基地となって賑わったが、酒に関しては庄内鶴岡、越後村上、さらには越中放生津方面に至るかなりな広範囲から送り込まれていた実相が見えてきた。 また、蝦夷地増毛の場所請負商人は江戸に本店を置く伊達屋林右衛門であったが、この伊達家文書によれば、鮭に代表される塩魚が大量に江戸市場に送り込まれていたことが見えてきた。千両単位の取引が頻繁に繰り返され、為替の取り組みも日常化していた。他方、八戸湊には伊豆方面はおろか瀬戸内方面の船も数多く入津しているが、蝦夷地との関係においては陸奥湾沿岸諸湊ほどの緊密性はなかった。ここでは鉄の移出が多く、平潟湊へ廻漕されて陸奥南部の野鍛冶を支えていたし、陸路秋田藩領の鉱山へも輸送されて鉱山業を支えていた。このように、蝦夷地を一つの核にしつつ、漁業や酒造業、鉱山業など産業市場として地域間の交易市場が形成されていった様子について見通すことができるようになった。
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