2005 Fiscal Year Annual Research Report
ミケーネ社会からポリス社会への構造転換に関する統合的研究
Project/Area Number |
16520438
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
周藤 芳幸 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (70252202)
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Keywords | ミケーネ文明 / ポリス / 初期鉄器時代 / 東方化様式 / エジプト / キプロス / 線文字B / アルファベット |
Research Abstract |
本年度は、平成16年度に得られたミケーネ時代の社会構造に関する基本的な知見を踏まえた上で、さらに最新の知見を収集することにより、ミケーネ時代から初期鉄器時代への構造転換について研究した。研究の中心課題は、集落組織の構造の変化であり、この点を明らかにするために、クレタ島のカヴーシ(カストロ、ヴロンダ、アゾリア)、メッセニアのニホリア、エウボイア島のレフカンディ、ロドス島のヴルリアのデータを相互に比較検討した。そこからは、これらの不安定な集落が初期鉄器時代にポリスへと発展することなく廃絶されることの背景に、集落組織の再編成をともなうローカルな動きがあり、それがポリス社会の基本構造の確立にも関与しているとの見通しを得た。この点については、今後さらに検討を続ける必要性がある。平成17年度には、上記の作業と並行して、東地中海の状況を視野に収めるために、キプロス島とエジプトについても史料の収集を行った。とくに、エジプトにおいては、現地調査の過程で、キオス産アンフォラが早い段階でエジプト内陸部にも浸透していることを突き止めた。ミケーネ社会からポリス社会への転換を考える際には、青銅器時代と初期鉄器時代との関係だけではなく、初期鉄器時代に続く東方化様式の状況にも目を向けなくてはならないが、キオス産のアンフォラをはじめとする東方ギリシア系土器の分布は、この時期の東地中海全体の構造変化もまた、ポリス社会の確立にかかわっていた可能性を示唆している。このような視座のもとで、平成17年度には「空間の拡大」がポリスの成立に寄与したことを、植民活動と傭兵の定住という視点からも分析して、論考にまとめた上で発表する準備を進めた。さらに、キプロス島についても、キティオンなどから出土している初期の碑文とその内容を検討する作業に着手し、とりわけアルファベットの成立と定着に果たしたキプロス島の意義についても考察した。
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